トラネキサム酸

トラネキサム酸について

トラネキサム酸は、人工的に合成されたアミノ酸の一種で、止血剤および抗炎症剤として医療現場で広く用いられています。この薬剤は、重度の外傷、出産後の出血、外科手術、抜歯、鼻血、重い月経など、様々な出血を伴う症状の治療や予防に利用されます。また、遺伝性血管浮腫の治療にも用いられることがあります。

歴史と現状

1962年に日本の研究者、岡本彰祐と岡本歌子によって開発されました。その有用性から、現在では世界保健機関（WHO）の必須医薬品モデルリストにも掲載されています。日本では、トランサミンという商品名で止血剤として販売されており、後発医薬品も存在します。近年では、肝斑治療薬としてトランシーノという内服薬が販売され、さらに美白成分として化粧品にも配合されています。

作用機序

トラネキサム酸は、体内で血液凝固を妨げるプラスミンの働きを抑制することで、止血効果を発揮します。具体的には、プラスミノーゲンが活性化してフィブリンを分解するのを防ぎます。この作用は、特に一次線溶亢進による異常な出血に対して有効です。

また、トラネキサム酸はプロテアーゼ阻害剤としても知られていますが、プラスミン以外のセリンプロテアーゼは阻害しません。

薬物動態

投与されたトラネキサム酸は、血中半減期が約1〜1.5時間と比較的短く、3〜4時間以内に腎臓を通じて尿中に排出されます。腎機能に障害がある場合は、半減期が長くなることがあります。

医療用途

トラネキサム酸は、全身性または局所性の線溶亢進が関与する様々な出血傾向の治療に用いられます。具体的には、白血病、再生不良性貧血、紫斑病、肺出血、腎出血、鼻出血などが挙げられます。また、扁桃腺炎や口内炎による痛み、手術後の浮腫などの緩和にも利用されます。ただし、解熱作用はありません。

市販品

喉の痛みや口内炎を緩和する効果があるため、一般用医薬品にも配合されており、歯茎の出血を抑える成分として歯磨き粉にも使用されています。さらに、肝斑治療薬として内服薬のトランシーノが販売されており、化粧品にも美白有効成分として配合されています。

肝斑への効果

トラネキサム酸は、肝斑治療にも有効であることが示されています。いくつかの研究では、内服薬や外用薬として、他の一般的な治療法と同等以上の効果があることが確認されています。また、低用量でも肝斑に対して効果がある可能性が示唆されています。

ただし、トラネキサム酸の注射やマイクロニードリングによる治療効果については、さらなる研究が必要です。

副作用と安全性

トラネキサム酸の副作用は比較的稀ですが、内服薬の場合、軽い月経量の減少や胃の不調が起こることがあります。また、血栓症のリスクがある場合は注意が必要です。特に、脳血栓、心筋梗塞、血栓性静脈炎などの疾患を持つ人や、手術後で臥床状態にある人は慎重に投与する必要があります。動物実験では、比較的安全性の高い物質であることが確認されています。

獣医学分野では、犬や牛の手術時の出血予防や、子豚の下痢治療にも用いられています。

まとめ

トラネキサム酸は、止血、抗炎症作用のほか、肝斑の改善など、幅広い用途で使用される薬剤です。医師や薬剤師の指示に従い、適切に使用することが大切です。

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