肥後もっこす

「肥後もっこす」は、熊本県民特有の気質を表す言葉として知られています。これは、津軽の「じょっぱり」、土佐の「いごっそう」と並び、日本三大頑固の一つに数えられています。

概要

肥後もっこすは、純粋で正義感が強く、一度決めたことは何があっても曲げないという、非常に頑固な性質を指します。男性的な性格が特徴で、自己顕示欲が強く、議論を好む傾向があります。異なる意見に対しては徹底的に反論し、たとえ自分が間違っていても、自説を押し通そうとします。

短気で感情的な面もありますが、根は明るく大らかです。プライドが高く、特に恥やメンツを重んじる傾向があります。保守的な面もありますが、新しいもの好きという一面も持ち合わせています。駆け引きが苦手で、他人を説得する粘り強さに欠け、組織の中で協調して働くよりも、独自の道を追求することを好みます。

「俺が、俺が」という意識が強く、主流から外れると、激しい批判者になることもあります。しかし、その性格は陰険ではなく、南国特有の明るさを持っています。不器用な面もありますが、真面目で純粋であり、裏技や小細工を嫌います。ストレートな物言いで損をすることも少なくありません。

「肥後の議論倒れ」という言葉があるように、議論好きではありますが、自己主張が強いため、議論がまとまらないことが多いです。自説に固執する頑迷さは、「肥後の褐色和牛（あかうし）」と例えられることもあります。

歴史的背景と現代

幕末期には、勤王党が議論に明け暮れ、意見がまとまらず、清川八郎が「肥後人は議論するのみ」と嘆いたという逸話も残っています。しかし、一度信頼関係を築くと決して裏切らないという義理堅さも持ち合わせています。単に強情なだけでなく、神経が細やかで、細かい気配りができるため、九州男児の鑑だとする見方もあります。

明治時代の言論人・佐々友房は、熊本県人の気質を客観的に分析し、その姿こそが熊本人の本来の姿であると評しました。東海大学の創設者である松前重義は、学生たちに「肥後もっこす」の精神を説き、その精神は現在も大学の必修科目として受け継がれています。

近年では、「肥後もっこす」が減少しているという指摘もあります。野田知佑は、農村のサラリーマン化が進み、「独立自尊」「唯我独尊」の精神が失われたことが原因であると分析しています。

他の県民性との比較

同じく頑固な県民性として知られる高知の「いごっそう」が反権威主義であるのに対し、肥後もっこすは権威主義・事大主義的な面があるという違いがあります。また、佐賀県の県民性と比較すると、肥後もっこすの方が明るい性格であるとされています。

肥後もっこすが形成された要因としては、分裂質から生まれたとする説や、武士道を重視した細川家支配の影響を指摘する説があります。

多様な側面

渡辺京二は、「もっこす」と言われる人物は一般的な熊本県民から見ても変わり者であり、県民全体を代表するものではないと指摘しています。現代においては、「新しいもの好き」を意味する「わさもん」の方が多く見られるとも言われています。戦後、「もっこす」が熊本県の県民性の代表格とされましたが、それ以前は「（人や世間などを）馬鹿にする」という意味の「わまかし」が代表的な県民性として認識されていました。

薩摩人気質との比較

肥後人気質は、隣接する薩摩人気質と比較されることが多いです。薩摩では、強力なリーダーが現れると皆が一致団結しますが、肥後では各々がリーダーシップを発揮しようとするため、まとまりに欠けると言われます。「薩摩の大提灯、肥後の鍬形」という言葉は、その違いを象徴しています。「意地は熊本、気は薩摩」とも言われ、熊本県民の意地の強さが強調されています。

「薩摩の芋づる、肥後の引き倒し」という言葉は、両県民の気質を揶揄的に表現したものです。薩摩では、成功者をみんなで支え、その成功を分かち合おうとするのに対し、肥後では、成功しようとする人を引きずり下ろそうとする傾向があると言われています。

このように、「肥後もっこす」という言葉は、熊本県民の多様な気質を表現するものであり、その背景には歴史や文化、地理的な要因が複雑に絡み合っています。

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