胎蔵界五仏

胎蔵五仏：密教曼荼羅の中心五尊

仏教密教において、胎蔵曼荼羅の中心に位置する五尊を胎蔵五仏と呼びます。胎蔵曼荼羅は、密教の二大曼荼羅である胎蔵曼荼羅と金剛界曼荼羅のうちのひとつで、『大日経』に基づき、悟りの世界を視覚的に表現したものです。サンスクリット語の原義は「大いなる慈悲から生じた曼荼羅」とされ、日本では平安時代以降、「胎蔵界」曼荼羅と呼ばれるようになりましたが、これは正確な表現ではありません。

胎蔵五仏は、中心に位置する大日如来と、その周囲を取り囲む四仏から構成されます。それぞれの仏像は、悟りの境地に至るまでの過程を象徴的に表しています。

胎蔵五仏を構成する五尊

大日如来: 胎蔵五仏の中心であり、宇宙の根源、全ての仏の根本を象徴する存在です。
宝幢如来: 東方（胎蔵曼荼羅では上方）に位置し、「発心」、つまり悟りを求める心を起こす段階を表します。
開敷華王如来: 南方（胎蔵曼荼羅では右方）に位置し、「修行」、悟りへの道を精進する段階を表します。
無量寿如来: 西方（胎蔵曼荼羅では下方）に位置し、「菩提」、悟りの境地に至る段階を表します。
* 天鼓雷音如来: 北方（胎蔵曼荼羅では左方）に位置し、「涅槃」、悟りが完全に成就した状態を表します。

胎蔵曼荼羅と胎蔵五仏の位置関係

胎蔵曼荼羅は、全体で12の区画から成り立っており、その中心部である「中台八葉院」に胎蔵五仏が配置されています。大日如来は蓮華の中央に位置し、周囲の八葉には四仏と四菩薩が配置されています。 宝幢如来、開敷華王如来、無量寿如来、天鼓雷音如来の四仏は、大日如来を取り囲むように配置され、それぞれの方角に位置することで、悟りの道の四段階を視覚的に示しています。

胎蔵五仏の造像

日本では、胎蔵五仏のみを独立して造形した古い遺品はほとんど残されていません。 ただし、1980年に再建された延暦寺法華総持院東塔には、昭和時代の彫刻家、松久朋琳らの作品である胎蔵五仏が安置されています。これは、比較的近年に制作された例となります。

胎蔵五仏と金剛界五仏

密教では、胎蔵曼荼羅と並んで金剛界曼荼羅も重視され、両者を合わせて両部曼荼羅と呼びます。金剛界曼荼羅の中心には、金剛界五仏（五智如来）が配置されています。胎蔵五仏と金剛界五仏は、それぞれ異なる曼荼羅に属するものの、どちらも密教における重要な仏像群として位置付けられています。 胎蔵五仏は慈悲の世界観を表すのに対し、金剛界五仏は智慧の世界観を表しているという違いがあります。

まとめ

胎蔵五仏は、密教における重要な象徴であり、悟りの道を段階的に表現する視覚的な表現として、胎蔵曼荼羅の中心に位置づけられています。 それぞれの仏像が持つ意味や、曼荼羅における配置、歴史的背景などを理解することで、密教の世界観をより深く理解することができます。 また、金剛界五仏と比較することで、密教における二つの主要な曼荼羅の違いについても理解を深めることが出来ます。

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