腸炎ビブリオ

腸炎ビブリオとは

腸炎ビブリオ（Vibrio parahaemolyticus）は、ビブリオ属に属するグラム陰性の好塩性桿菌です。主に海水中に生息し、汚染された魚介類を生食することで、人に食中毒を引き起こします。

歴史

1950年、大阪府で発生したシラス干しによる集団食中毒事件で、藤野恒三郎によって発見されました。当時、原因不明の食中毒として毒物混入も疑われましたが、藤野の研究により新種の細菌が原因と判明しました。当初はパスツレラ属と考えられましたが、後にビブリオ属に分類され、現在の学名となりました。

特徴

形態: 大きさは約0.3×2µmで、真っ直ぐな桿菌です。コレラ菌のような湾曲は見られません。
鞭毛: 菌体の一端に極鞭毛を持つだけでなく、周囲全体に周毛性の鞭毛を持つ点が特徴です。
生理: 増殖には1-8%の塩化ナトリウムを必要とする好塩菌です。水温が20℃以上で活発に増殖し、低温、高温、真水、酸に弱い性質を持ちます。
染色体: 大小2つの染色体を持つことが特徴的で、細菌が複数の染色体を持つ最初の例として発見されました。
増殖速度: 至適な条件下では約10分に1回分裂するという、非常に早い増殖速度を持ちます。

腸炎ビブリオ食中毒

疫学

日本では、サルモネラと並んで発生件数の多い食中毒の一つです。特に夏場に多く発生します。近年では、寿司や刺身の世界的な普及に伴い、地域偏在的な特徴は薄れつつあります。

感染源

主に生鮮魚介類を介した経口感染です。イカや貝類が比較的多いですが、ほとんどの海産魚介類が原因となり得ます。感染には約100万個以上の生きた菌が必要とされますが、増殖が早いため、常温で放置された魚介類では短時間で発病菌数に達することがあります。

症状

潜伏期間は6-12時間で、激しい腹痛を伴う下痢が主な症状です。嘔吐や発熱を伴うこともあります。通常は2-3日で回復しますが、高齢者など免疫力の低下した患者では、まれに死亡例も報告されています。

治療

通常は自然に回復しますが、重症の場合には抗菌薬が投与されます。止瀉薬（下痢止め）は、菌の排出を遅らせる可能性があるため、使用しないことが多いです。脱水症状や循環器症状には十分な注意が必要です。

予防

生の魚介類を常温で放置しない。
冷蔵（4℃以下）保存する。
真水でよく洗浄する。
* 十分に加熱（中心部が60℃以上、10分以上）調理する。

耐熱性毒素

腸炎ビブリオが産生する溶血[毒]]には、耐熱性溶血毒]と耐熱性[毒素関連溶血毒]の2種類があります。これらの[[毒素は、腸管や心臓に作用し、下痢や重症例では死亡を引き起こす可能性があります。TDHを産生するかどうかは、神奈川現象と呼ばれる試験で判定されます。

まとめ

腸炎ビブリオは、魚介類を介して食中毒を引き起こす一般的な細菌です。適切な予防策を講じることで、食中毒のリスクを減らすことができます。特に夏場は、魚介類の取り扱いに注意し、生食を避けるなどの対策が重要です。

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