腹腔鏡

腹腔鏡手術：小さな穴からの精密手術

腹腔鏡手術とは、腹腔内に内視鏡を挿入し、モニターに映し出された映像を見ながら手術を行う低侵襲な外科手術です。従来の開腹手術と異なり、体への負担を軽減できるため、術後の回復が早く、入院期間の短縮にも繋がります。 「ラパロ」と呼ばれることも多く、近年ではその精密さと安全性から、多くの外科領域で広く用いられています。

歴史：腹腔鏡技術の進化

腹腔鏡手術の歴史は古く、1902年にはドイツの医師ゲオルグ・ケリングがイヌを用いた腹腔内観察を報告しています。その後、1910年にはスウェーデンの医師ハンス・クリスチャン・ヤコビウスが胸腔の観察に腹腔鏡を用い、「laparoscopy」と命名しました。日本では1990年、山川達郎医師が初めて腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行しました。以来、技術の進歩と機器の改良によって、より複雑な手術も腹腔鏡下で行えるようになり、現在では、多くの医療機関で標準的な手術方法として確立されています。

術式の種類：様々なアプローチ

腹腔鏡手術には様々な術式が存在します。腹腔内に空気を入れる気腹式と、腹腔を吊り上げる吊り上げ式があり、いずれもモニターを通して精密な操作を可能にします。また、切開部位も4孔式（通常法）、単孔式、4孔式+小さく開腹など、患者の状態や手術内容に応じて選択されます。

外科分野別の手術例：幅広い応用

腹腔鏡手術は、消化器外科、泌尿器科、産婦人科など、多くの外科領域で応用されています。代表的な手術例を挙げると、

消化器外科
胆嚢摘出術
脾臓摘出術
虫垂切除術
胃切除術
結腸切除術
肝切除術
膵頭十二指腸切除術
腫瘍切除
生検

泌尿器科
前立腺摘出術
腎摘出術
腎部分切除術
副腎摘出術
副腎部分切除術

産婦人科
子宮全摘出術
卵巣摘出術

などがあります。消化器内科においては、肝生検なども腹腔鏡を用いて行われます。

開腹手術との違い：低侵襲手術のメリット

腹腔鏡手術は、従来の開腹手術と比較して、以下のメリットがあります。
傷が小さく、美容的なメリットがある
出血量が少ない
術後の痛みが少ない
入院期間が短い
* 回復が早い

しかし、開腹手術に比べて複雑な手術には適さない場合もあります。また、熟練した医師による精密な操作が必要となります。

安全性とリスク：医療事故の教訓

腹腔鏡手術は安全性の高い手術ですが、医療事故のリスクも存在します。過去には、慈恵医大青戸病院事件や群馬大学病院腹腔鏡手術後8人死亡事故といった、深刻な医療事故が発生しています。これらの事故から学ぶべきことは、手術前の十分な準備、熟練した医師による手術、術後の適切な管理の重要性です。安全な手術を行うためには、医師の技術向上と医療体制の整備が不可欠です。

まとめ：進化を続ける腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は、低侵襲で安全性の高い手術として、現代の外科手術に欠かせない技術となっています。今後も技術革新が続き、より安全で精密な手術が期待されます。 開腹手術に比べて傷跡が小さく、回復も早いことから、患者さんのQOL向上にも大きく貢献しています。

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