腹話術

腹話術

腹話術（ふくわじゅつ）は、口を動かさずに声を発する技術であり、観客には人形が話しているかのように感じさせます。このパフォーマンスは、唇を少し開けた状態で音声を出し、手を使って人形の口を操作します。演じる人は腹話術師と呼ばれ、技術的な熟練が求められます。

歴史

腹話術の起源は古代に遡り、当初は呪術や占いの一部として用いられていました。聖書にも腹話術の記述があり、紀元前5世紀のギリシャのエウリクレスは、唇をほとんど動かさずに声を出すことができたとされています。中世には魔女狩りの影響を受け、腹話術師も迫害されることがありました。エリザベス・バートンは、19歳で占いの力を自覚し、腹話術を用いてお告げを行なったことで知られています。

1584年、レジナルド・スコットの著書『Discovery of Witchcraft』では、腹話術のトリックについて言及され、時代とともにこの技術は娯楽としても広まっていきました。1624年、フランスのリシュリュー枢機卿の下で腹話術が披露され、1661年にはレオ・アラティウスが腹話術に関する論文を発表しました。この頃、ショーとしての腹話術も一般的に楽しまれるようになっていきます。

18世紀では、ロンドンのサミュエル・ハニマンが腹話術を使ったいたずらを行い、一時期有名になりました。彼は道化的なパフォーマンスを通じて視聴者を楽しませました。1750年には、バロン・フォン・メンゲンが人形を使って本当に話しているかのように見せる手法を考案しました。その後も多くの腹話術師が舞台で活躍し、演技方法の多様化が進んでいきました。

1800年には、奇術と腹話術のコラボレーションが見られるようになり、シュリンプとフィッツのジェイムズ兄弟はそれぞれの役割を持ってパフォーマンスを行いました。具体的に、フレンチ・クリスティーン・エマニュエル・コントやジョージ・サットンなどもこの分野での成功を収めました。特にジョージ・サットンは、自動的に口を動かす機械仕掛けの人形を使って話すスタイルで知られています。

シカゴ出身のエドガー・バーゲンは、1930年代から1940年代にラジオで人気を博し、その人形チャーリー・マッカーシーは商業化され映画化もされたほか、サンフランシスコの一日市長となるなど大いに注目を集めました。

近年では、腹話術が娯楽だけでなく教育の場でも利用されることが増えてきています。特に、精神的な障害を持つ子供たちの教育に役立つ取り組みが見られています。2017年、ダルシー・リン・ファーマーが『アメリカズ・ゴット・タレント』で優勝し、その存在感を示したことも、腹話術の再評価に寄与しています。

日本では、2000年5月に日本腹話術師協会が設立され、会員数も増加しています。腹話術が日本国内で広がりを見せる一方で、数多くの著名な腹話術師も活動しています。特に、いっこく堂や川上のぼる、笑福亭笑子などが広く知られています。

腹話術のテクニック

腹話術の技術は、口、唇、顎の筋肉を動かさず声を出すことにあります。声を発する際に完全に唇を閉じるのではなく、あくまで唇を少しだけ開ける状態を維持します。母音の「イ」や「ア」を発音する程度に唇を開け、動唇音（マ行、バ行、パ行）を発音する際は特に注意が必要です。これらの音は通常唇を閉じないと発音できないため、言葉を選ぶ際に工夫が求められます。たとえば「ママやパパ」ではなく、「お母さんやお父さん」と言い換えることで十分に表現できます。

熟練した腹話術師は、上の前歯や舌などを巧みに使い、唇を動かさずに発音する技術を磨くことで、より自然なパフォーマンスを実現します。腹話術は技術と芸術が融合した、非常に奥深い表現方法と言えるでしょう。

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