川上のぼる

川上 のぼる：腹話術と笑いのエンターテイナー

川上 のぼる（1929年12月11日 - 2013年9月7日、本名：川上 登）は、日本の腹話術界に大きな足跡を残した、稀代のエンターテイナーでした。寄席芸としての腹話術を確立した第一人者と称され、その軽妙な語り口と卓越した技は、多くの人々に愛されました。

芸術一家に育ち、幼少期から芸の才能を開花

京都市に生まれた川上は、日本画家の川上拙以を父に持ち、芸術一家に囲まれて育ちました。兄は東映の美術監督、弟は陶芸家と、芸術的な才能は一家に受け継がれていたようです。幼少期から芝居小屋や寄席に馴染み、2代目渋谷天外や2代目桂春團治といった著名な芸人たちと接する機会に恵まれました。この環境が、川上の芸への道を決定づけたと言えるでしょう。少年時代には、チャップリンやヒトラーのモノマネを既に得意としており、その才能は2代目天外をして「養子に欲しい」と言わしめるほどでした。

エドガー・バーゲンとの出会い、そしてプロへの道

旧制中学5年の時、川上はエドガー・バーゲンの腹話術映画に衝撃を受けます。見よう見まねで始めた腹話術は、ブラックユーモアを交えた独特のスタイルで文化祭で評判となり、各地の余興に呼ばれるようになりました。やがて中村メイコの劇団に参加するなど、芸の道へと足を踏み入れていきます。京都府立山城高等学校を経て、京都学芸大学（現・京都教育大学）音楽科に入学。在学中の1951年、朝日放送が開局すると、大学生タレント第1号としてプロデビューを果たします。

朝日放送専属タレントとして人気を獲得

朝日放送専属タレントとなった川上は、『ハリスクイズ』『ピアス歌のカクテルパーティー』などの番組で司会を務め、お茶の間の人気者となります。『ハリスクイズ』では、スポンサー名にちなんだ腹話術人形「ハリス坊や」を相棒に、「イットーショー（一等賞）！」のフレーズは流行語となり、番組は大成功を収めました。3代目桂米朝は、当時の川上の活躍について「あの頃一番儲けはった」と回顧するほどでした。

多彩な芸で観客を魅了、リズムボーンズを結成

ラジオ番組での成功後も、川上は舞台活動にも精力的に取り組みます。千日劇場や旧うめだ花月などに出演し、自身の芸を磨いていきました。1963年には、弟子たちと『川上のぼるとリズムボーンズ』（のちに『川上のぼると大阪ヤローズ』と改称）を結成。音楽ショウ、腹話術、声帯模写、コントなど、多様な芸を駆使したパフォーマンスで寄席を盛り上げました。1987年には中国公演を行うなど、国際的な活躍も見せています。晩年は天満天神繁昌亭で腹話術を披露し、その芸を生涯貫きました。2011年頃から足の疾患により自宅療養を続けていましたが、2013年9月7日、心不全のため83歳で死去しました。

多くの弟子を育成、日本の腹話術界に貢献

川上は、多くの弟子を育成し、日本の腹話術界の発展に大きく貢献しました。寺下ジョージ（のちのタイヘイ原児）、堺すすむ、大空テント、宮本きよしなど、多くの著名な芸人を育て上げました。これらの弟子たちは、川上から受け継いだ技術と精神を礎に、それぞれ独自のスタイルを確立し活躍しました。

唄う声帯模写の第一人者

川上は、唄う声帯模写の第一人者としても知られています。花菱アチャコ、高田浩吉、ディック・ミネ、小林旭など、多くの著名人の物真似をレパートリーとして持ち、その精巧な技は多くの聴衆を魅了しました。

ラジオ、テレビ、映画と幅広く活躍

川上は、ラジオ、テレビ、映画と、多様なメディアに出演しました。朝日放送のラジオ番組を中心に活躍する一方、『京阪テレビカー』、『スターと飛び出せ歌合戦』などのテレビ番組にも出演。また、『幽霊五十三次』、『大日本殺し屋伝』、『のど自慢』など、多くの映画作品にも出演しています。

数々の受賞歴と殿堂入り

川上の功績は高く評価され、上方お笑い大賞特別賞、大阪市民表彰（文化功労）、日本腹話術貢献者賞を受賞。2014年には上方演芸の殿堂入りを果たしました。これらの受賞歴は、川上が日本の芸能史に大きな足跡を残したことを証明しています。

まとめ

川上 のぼるは、優れた芸の才能、人柄、そして後進育成への尽力によって、日本の腹話術界に大きな影響を与えました。その功績は、これからも多くの人々に語り継がれていくことでしょう。彼の芸と人生は、日本のエンターテインメント史における重要な一ページを飾っています。

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