腺ペスト

腺ペスト

腺ペストは、ペスト菌（Yersinia pestis）によって引き起こされる感染症であり、ペストの3つの主要な病型の一つです。ヒトのペスト症例の80〜90%を占め、適切な治療を受けなければ致死率が高い病気です。

症状

感染は、主にペスト菌に感染したノミに刺されることによって起こります。感染後、1〜7日の潜伏期間を経て、以下のような症状が現れます。

発熱: 40℃程度の高熱
頭痛: 激しい頭痛
悪寒: 寒気
倦怠感: 全身のだるさ
不快感: 全身の不快感
食欲不振: 食欲の低下
嘔吐: 吐き気、嘔吐
筋肉痛: 筋肉の痛み
疲労衰弱: 体力の低下
精神錯乱: 意識の混濁

特徴的な症状は、鼠径部、腋窩、頸部などのリンパ節の腫れ（横痃：おうげん）です。腫れたリンパ節は非常に痛みを伴い、触ると硬く感じられます。重症化すると、腫れたリンパ節が破裂し、敗血症や肺ペストに進行することがあります。

原因と感染経路

腺ペストは、主にペスト菌に感染したノミや小動物（ネズミなど）によって媒介されます。感染経路は以下の通りです。

ノミ刺咬: 感染したノミに刺されることで、ペスト菌が皮膚から侵入します。
動物との接触: 感染した動物の体液や組織に直接触れることで感染します。

ペスト菌は、皮膚の傷口や粘膜から侵入し、リンパ管を通って最寄りのリンパ節に到達し、そこで増殖して炎症を引き起こします。

診断

腺ペストの診断は、以下の検査によって行われます。

血液検査: 血液中のペスト菌の検出
喀痰検査: 喀痰中のペスト菌の検出（肺ペストの場合）
リンパ節穿刺液検査: 腫れたリンパ節から採取した液体の検査

早期診断と治療が重要であり、疑わしい症状がある場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。

治療

腺ペストの治療には、抗生物質が使用されます。効果的な抗生物質としては、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ドキシサイクリンなどが挙げられます。治療は、発症後できるだけ早く開始することが重要です。

適切な治療を受けた場合の死亡率は約10%ですが、無治療の場合の死亡率は30〜90%と非常に高くなります。

予防

腺ペストの予防には、以下の対策が有効です。

ネズミの駆除: ネズミの生息環境をなくし、繁殖を防ぐ。
ノミの駆除: ノミの発生を防ぐために、殺虫剤を使用する。
個人防護: ペスト流行地域では、長袖、長ズボンを着用し、虫よけ剤を使用する。動物の死骸や体液には触れないようにする。

現在、ペストに対するワクチンは存在しません。

疫学

ペストは、世界中で年間約650例が報告されており、そのうち約120人が死亡しています。21世紀において、ペストの発生が多い地域はアフリカです。

歴史

ペストは、歴史上、何度も大流行を引き起こし、多くの人命を奪ってきました。14世紀にヨーロッパで大流行した黒死病（ペスト）は、当時のヨーロッパ人口の25〜60%にあたる約5000万人の命を奪ったと推定されています。この大流行は、社会、経済、文化に大きな影響を与え、ヨーロッパの歴史を大きく変えるきっかけとなりました。

「bubonic」という言葉は、ギリシャ語で「股」を意味する「βουβών」に由来し、「buboes」は腫れたリンパ節を意味します。

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