膀胱尿管逆流

尿管膀胱逆流（にょうかんぼうこうぎゃくりゅう、Vesicoureteral Reflux、略称：VUR）は、下部尿路の病態の一つで、膀胱に溜まった尿が、通常であれば一方通行である尿管を通って腎臓の腎盂や腎実質へと逆向きに流れてしまう状態を指します。

概要

健康な状態では、尿は腎臓で生成された後、尿管を通って膀胱に運ばれ、膀胱が満たされると排尿によって体外へ排出されます。この際、尿管が膀胱の壁を斜めに貫通する構造や、膀胱内の圧力が高まった際に尿管膀胱接合部にある弁のような働きをする機構により、膀胱から尿管への逆流が防がれています。

しかし、尿管膀胱逆流が発生している状態では、この自然な逆流防止機構が十分に機能しないため、膀胱内の尿が腎臓側へと逆流してしまいます。特に排尿時や咳・くしゃみなどで腹圧・膀胱内圧が上昇した際に逆流しやすくなります。

この異常な逆流は、尿路内に細菌が存在する場合に、細菌を腎臓まで運んでしまう原因となります。これにより、高熱や腰痛などを伴う腎盂腎炎を繰り返し発症しやすくなります。特に小児期に腎盂腎炎を繰り返すと、腎臓に瘢痕（傷跡）が形成され、将来的な腎機能障害や高血圧の原因となるリスクがあるため、早期の診断と適切な管理が重要となります。

尿管膀胱逆流は、その原因によって大きく二つのタイプに分けられます。

1. 原発性尿管膀胱逆流: 生まれつきの尿管と膀胱の接合部（尿管膀胱接合部）の形態的な異常や機能不全が原因で起こります。小児に見られるVURの大部分はこのタイプです。成長に伴って自然に改善することが期待できる場合もあります。
2. 続発性尿管膀胱逆流: 尿路の通過障害や膀胱の機能障害など、別の後天的な基礎疾患が原因で起こります。例えば、神経の障害により膀胱の機能がうまく働かない神経因性膀胱、尿道の出口が狭い（後部尿道弁など）、男性における前立腺肥大症による排尿障害などが挙げられます。これらの基礎疾患によって膀胱内圧が異常に高まったり、尿路の抵抗が増加したりすることがVURを引き起こします。

診断

尿管膀胱逆流の確定診断には、排尿時膀胱尿管造影（VCUGまたはMCUG）が最も信頼性の高い検査法です。この検査では、カテーテルを用いて膀胱内に造影剤を注入し、膀胱が満たされる過程および排尿中の様子をX線で連続的に撮影します。これにより、尿が膀胱から尿管や腎臓へと逆流するのを確認し、逆流の有無や程度（グレード）を評価します。

また、尿路感染症、特に腎盂腎炎の症状がある場合には、診断の手がかりとなる身体所見がみられることがあります。例えば、腎臓の位置する背部、具体的には肋骨と背骨が作る角の部分（肋骨脊椎角、CAV）を軽く叩くと痛みが誘発されるCAV叩打痛は、腎盂腎炎を示唆する重要な所見の一つです。その他、尿検査で細菌や白血球の増加を確認したり、超音波検査で尿管の拡張や腎臓の形態異常を調べたりすることもあります。

治療

尿管膀胱逆流の治療方針は、原因のタイプ（原発性か続発性か）、逆流の重症度（グレード）、患者さんの年齢や全身状態、尿路感染症の頻度などによって決定されます。

原発性尿管膀胱逆流の治療:
軽症例: 特に小児の軽症例では、成長に伴って尿管膀胱接合部の構造が成熟し、自然に逆流が消失することが多いため、慎重な経過観察が主な選択肢となります。この間、尿路感染症を予防するために、適切な排尿習慣の指導や、場合によっては少量の抗生物質を継続的に服用する予防療法が行われることもあります。
重症例や難治例: 逆流の程度が重い場合、経過観察で改善が見られない場合、あるいは頻繁に腎盂腎炎を繰り返して腎機能への影響が懸念される場合には、外科的治療が検討されます。最も一般的な手術は尿管膀胱新吻合術（または尿管移植術）です。これは、尿管を膀胱壁に新たに縫い付けることで、逆流を効果的に防ぐ機構を再建する手術です。近年では、内視鏡を用いて尿管口の近くに物質を注入し、逆流を防ぐ内視鏡的治療も行われています。

続発性尿管膀胱逆流の治療:
* 続発性VURの場合は、逆流を引き起こしている根本原因の治療が最も重要です。例えば、後部尿道弁があればそれを切除する手術、前立腺肥大症による排尿障害があれば薬物療法や手術、神経因性膀胱であれば適切な排尿管理法（間欠的自己導尿など）や薬物療法が行われます。原疾患が適切に治療されれば、それに伴って膀胱内圧が正常化し、VURも改善または消失することが期待できます。

尿管膀胱逆流は、泌尿器科学の分野、特に小児泌尿器科において重要な疾患の一つとして扱われています。適切な診断と治療により、尿路感染症の反復を防ぎ、腎臓を保護することが治療の主要な目的となります。

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