自動車製造事業法
自動車製造事業法とは
自動車製造事業法は、1936年（昭和11年）に制定された日本の法律です。この法律は、国防の強化と国内産業の発展を目的として、自動車製造事業を許可制とすることを主な内容としていました。具体的には、外国資本を排除し、国産自動車産業の育成を推進することが狙いでした。
成立の背景
1930年代初頭、日本は世界恐慌の影響を受け、産業統制政策を強化していました。また、満州事変での戦訓から、軍用自動車の国産化が急務であるという認識が日本陸軍内で高まっていました。当時、日本の自動車市場はアメリカのフォードやGMといった外国資本が大きなシェアを占めており、国産自動車産業は十分に発達していませんでした。陸軍は、国家総力戦を想定し、軍用自動車の戦時量産体制の確立を求め、商工省に保護立法の必要性を訴えました。
商工省は当初、外国資本との提携による技術導入を支持していましたが、1935年に岸信介が工務局長に就任すると、方針を転換しました。岸は、ドイツのナチス政権のように、統制経済による産業合理化を目指し、自動車産業を国家主導で育成することを決定しました。その結果、「自動車工業法要綱」が閣議決定され、自動車製造事業の許可制導入、外国企業の工場拡張の阻止といった方針が打ち出されました。
アメリカ政府は、この方針が日米通商航海条約に違反すると抗議しましたが、日本政府は国防目的であるため条約に違反しないと反論しました。1936年には、陸軍の強い干渉により、日産自動車と日本GMの合併計画が破棄に追い込まれ、同年5月、自動車製造事業法が成立しました。
法律の内容
自動車製造事業法は、自動車製造事業の許可制を定めており、許可を受けるためには、会社が日本国内の株式会社であること、株主や取締役、資本金の過半数、議決権の過半数が日本国民または日本法人に属していることが条件とされました。これにより、外国企業の新規参入は事実上不可能になりました。
既存の外国企業については、既得権が認められましたが、工場の拡張は禁止されました。特に、フォードは、法案成立を見越して事前に工場拡張を進めていましたが、法律の遡及適用により、この計画は頓挫しました。この遡及規定は、法の不遡及の原則に反するとして、当時、批判も集めました。
その他、政府の介入権限や許可会社への税制優遇措置などが規定されました。また、許可会社には年間生産台数のノルマが課せられました。この法律の条文には、「国防ノ整備及産業ノ発達ヲ期ス為」と国防目的が明記されており、これは日米通商航海条約との関係上、重要な規定でした。
法律の影響
自動車製造事業法により、日産自動車と豊田自動織機（後のトヨタ自動車工業）の2社が許可会社となり、後に東京自動車工業（後のいすゞ自動車）が加わりました。この法律の施行と、日中戦争勃発による円為替相場の下落、輸入部品の高騰により、1939年にはフォード、GM、クライスラーの3社は日本から撤退しました。
しかし、この法律によって国産車の信頼性が向上し、大量生産体制が確立されたわけではありませんでした。戦場では、中古車であってもフォードやシボレーの方が歓迎されるという状況でした。また、ヘンリー・フォードは、自社の工場が受け入れられれば、日本の自動車産業の育成に貢献できたはずだと述べています。
法律の改正
自動車製造事業法は、その後、数回にわたり改正が行われました。1939年には、商法との関連条文の整理が行われ、1940年には、所得税等の免除規定が改正されました。1941年には、自動車製造事業委員会の権限が廃止されました。
法律の廃止
自動車製造事業法は、1945年12月21日に、石油業法外十三法律廃止法律により廃止されました。この法律は、日本の自動車産業に大きな影響を与え、戦後の自動車産業の発展の基礎を築いたと言えます。
参考文献
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