自画像 (ティツィアーノ、絵画館)

ティツィアーノ・ヴェチェッリオの自画像

この自画像は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1550年から1555年頃に制作した油彩作品です。現在、ベルリンの絵画館に所蔵されており、ティツィアーノが残した2点の自画像のうちの一つとして知られています。もう一点はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

作品の特徴

この作品は、ティツィアーノが70歳頃の自身の姿を描いたものです。画面に描かれたティツィアーノは、強い存在感とカリスマ性を放っていますが、これは彼自身が内向的な性格であったという描写とは対照的です。

彼は白いシャツの上に毛皮の縁取りが施された上着を羽織り、黒い帽子を被っています。テーブルに向かい、右手をテーブルに、左手を左足の太ももの上に置き、顔を上げて画面右上を見つめる姿が描かれています。上着の間からは、1533年に神聖ローマ皇帝カール5世から贈られた三重の金の鎖ネックレスが覗き、白いシャツによって際立って見えます。しかし、画家としての象徴であるキャンバス、絵筆、パレットなどは描かれていません。

ティツィアーノは自身の姿を実年齢よりも力強く、若々しく描いているようです。顔の部分は完成していますが、手や袖などは未完成のまま残されています。この未完成な状態が、作品に独特の魅力を与えているとも言えるでしょう。

図像的源泉

ティツィアーノは、知識人を描く際の慣習的な表現方法を用いてこの自画像を描きました。その例として、ラファエロ・サンツィオの『トマーソ・インギラーミの肖像』が挙げられます。また、彫刻家ダネーゼ・カッターネオが制作した『ラッツァロ・ボナミコのブロンズ胸像』も、影響を与えた可能性が指摘されています。

制作年代に関する議論

この肖像画の制作年代については、研究者の間で意見が分かれています。様式的には、1560年代初頭の制作と技法が一致するとされています。厚塗りの技法や素早い筆さばき、光があふれるような絵画の表面は、晩年のティツィアーノの作風の特徴です。この時期は、ティツィアーノがサン・サルバドール教会のために『受胎告知』を描いたり、スペイン国王フェリペ2世のために《ポエジア》連作を制作していた時期と重なります。

一部の研究者は、この作品を記録に残っている自画像と同一視しています。例えば、1549年に人文主義者パオロ・ジョヴィオがコモに建設した博物館に展示するためにティツィアーノに発注した自画像や、1550年のジョヴァンニ・ブリットによる木版画のバージョン、ジョルジョ・ヴァザーリが1568年に「4年前に完成した」と言及した晩年の自画像などです。しかし、これらの自画像は、実際の様式が示す制作年代と矛盾しています。

美術史家マイケル・ジャッフィは、この作品をパオロ・ジョヴィオのバージョンと同一視し、2003年に制作年代を1546年から1547年頃としています。また、この作品が未完成であることを考慮すると、ヴァザーリが見たバージョンである可能性は低いと考えられますが、ヴァザーリの記述は信憑性に欠ける場合もあるため、可能性は完全に否定できません。

プラド美術館館長のミゲル・ファロミール・ファウスは、この作品をパオロ・ジョヴィオのバージョンの記念として制作された複製とみなしています。

作品の来歴

この自画像は、ティツィアーノの工房に残されていた作品の一つであり、1581年にティツィアーノの息子ポンポーニオ・ヴェチェッリオが、自宅を在庫ごとクリストフォロ・バルバリゴに売却した後、ヴェネツィアのバルバリゴ邸に保管されました。1815年に画家・美術収集家・美術史家のレオポルド・チコニャーラによって購入され、さらにエドワード・ソリーに売却されました。ソリーは1821年に3000点にも及ぶコレクションをプロイセンに売却し、これによりこの自画像は絵画館に収蔵されることになりました。

作品の影響

ランバート・スアヴィウスとアゴスティーノ・カラッチは、この作品あるいは完成度の高い別のバージョンを用いてエングレーヴィングを制作しました。現在、これらの作品はティツィアーノの最も再現された肖像画となっています。

この自画像は、ティツィアーノの芸術的才能と内面を垣間見ることができる貴重な作品であり、後世の画家たちにも大きな影響を与え続けています。

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