臼田甚五郎

臼田甚五郎：国文学・民俗学の巨星

臼田甚五郎（うすだ じんごろう）は、1915年1月25日に生まれ、2006年10月26日に亡くなった、日本の国文学者、民俗学者、そして歌人です。雅号を碧洋（へきよう）と称し、文学博士の学位を持つ國學院大學の名誉教授でした。彼の研究は、日本の伝統文化、特に歌謡や口承文芸の分野に深く根ざしており、学術界に多大な影響を与えました。

生涯

東京都大田区で生まれた臼田は、東京府立第一中学校を経て、1937年に國學院大學文学部を卒業しました。大学では、柳田國男、折口信夫、河野省三といった著名な学者に師事し、民俗学と国文学の基礎を築きました。1953年に國學院大學文学部の助教授に就任し、1957年には教授へと昇進。1961年には、「日本歌謡の文学史的民俗学的考察」という論文で文学博士号を取得しました。1985年に定年退職するまで、國學院大學で多くの学生を指導しました。退職後も、1990年には勲三等瑞宝章を受章するなど、その功績は高く評価されました。学外では、日本学術会議会員や歌謡学会会長などを務め、学術界の発展に貢献しました。2006年、前立腺癌のため91歳で生涯を閉じました。

研究業績

臼田の研究は、歌謡、昔話、伝説、世間話といった口承文芸の民俗学的研究を基盤としていました。また、日記文学、物語文学、説話文学など、幅広い分野にも精通していました。神道に関する研究も多く、その造詣の深さを示しています。彼は、歌謡史と民俗学を融合させた新たな日本歌謡文学研究を志し、その道を開拓しました。

幼少の頃から文学に親しみ、小学生時代には短歌を投稿し、北原白秋に選ばれたという逸話も残っています。國學院大学在学中は、方言研究会に所属し、柳田國男の指導の下で研究活動に励みました。方言研究会は、柳田國男が深く関わっていた特別な研究会であり、臼田は1935年に出版された『風位考資料』の編纂にも中心的な役割を果たしました。

國學院大學の教員となってからは、多くの学生研究会を立ち上げ、学生たちの育成に力を注ぎました。1953年の國學院大学説話研究会設立を皮切りに、歌謡研究会、源氏物語研究会、民族学研究会などを組織し、指導しました。これらの研究会からは、徳江元正、野村純一、野村敬子、福田晃、須藤豊彦、針本正行、吉海直人、居駒永幸、飯島一彦など、多くの優れた研究者が輩出されました。

著書

臼田は、研究活動の傍ら、数多くの著書を執筆しました。その一部を以下に紹介します。

『学生の為めの土佐日記の鑑賞』(1938)
『神道と文学』(1941)
『歌謡民俗記』(1943)
『平安女流歌人』(1943)
『本居宣長国学要集』(1943)
『大鏡・増鏡』(1956)
『孤悲記』(1966)
『日本芸能叙説』(1971)
『川物語』(1972)
『食はず女房その他』(1972)
『屁ひり爺その他』(1972)
『天人女房その他』(1973)
『平安歌人研究』(1976)
『子守唄のふる里を訪ねて』(1978)
『民俗文学へのいざなひ 烏と蟹とをめぐって』(1980)
『臼田甚五郎著作集』全8巻 (1995-97)
『口承文学大概』(1997)

また、共編著や校訂にも携わり、幅広い分野でその才能を発揮しました。

『新葉和歌集』(1944)
『枕草子 新釈註』(1954)
『枕草子の探求』(1960)
『はつしぐれ』(1967)
『御伽草子』(1973)
『玉葉和歌集』(1973)
『口承文芸の綜合研究』(1974)
『日本の説話 第1巻 原点と周辺』(1974)
『神楽歌・催馬楽』(1976)
『東北アジア民族説話の比較研究』(1978)
『神道大系 文学編 4 神楽歌』(1989)

記念論集

臼田の学術的な功績を記念して、複数の論集が出版されています。

『口承文芸の展開 臼田甚五郎博士還暦記念』(1974-75)
『日本文学の伝統と歴史』(1975)
* 『日本文学史の新研究』(1984)

臼田甚五郎は、その生涯を通じて、日本の伝統文化の探求に尽力し、多くの研究者や学生に影響を与えました。彼の研究は、現代の日本文化研究においても重要な基盤となっています。

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