新葉和歌集

新葉和歌集（しんようわかしゅう）

概要

『新葉和歌集』は、南北朝時代に成立した准勅撰和歌集であり、宗良親王によって編纂されました。この和歌集は、南朝の歌人たちの作品を多く収めていることが特徴です。1381年12月3日に奏覧されました。

成立の背景

当時の歌壇は、南朝と北朝で異なる動きを見せていました。南朝では二条派を信奉する天皇のもとで歌会が盛んに行われていましたが、北朝で編纂された勅撰和歌集には南朝の歌人の作品は一切選ばれていませんでした。この状況を憂慮した宗良親王は、南朝の歌を集めた和歌集を編纂することを決意しました。当初は親王自身の慰めとしての私撰集でしたが、長慶天皇の勅命により、勅撰和歌集に準ずるものとして改訂され、奏覧に至りました。

編纂は、1374年頃から始まったと推測されています。この時期には、南朝の歌壇は非常に活発で、多くの歌会が開催されていました。宗良親王は、1377年には歌の提出を要請しており、既に編纂作業が進行していたことが伺えます。親王が信濃に下向した後、花山院長親らが実務を担当し、1380年には完成稿に至りました。

内容

『新葉和歌集』は全20巻から成り、春、夏、秋、冬、離別、羇旅、神祇、釈教、恋、雑、哀傷、賀といった部立てで構成されています。歌数は約1420首で、元弘元年（1331年）から弘和元年（1381年）までの約50年間に詠まれた、皇族、廷臣、后妃、女官、僧侶など150余名の歌が収録されています。最も多く歌が収録されているのは後村上院で100首、次いで宗良親王自身の99首です。また、作者不明とされる歌の中にも、親王の作とされるものが多く含まれています。

入集歌数の多い歌人は以下の通りです。

100首 - 後村上院
99首 - 中務卿宗良親王
52首 - 御製（長慶天皇）、妙光寺内大臣（花山院家賢）
49首 - 文貞公（花山院師賢）
46首 - 後醍醐天皇
45首 - 冷泉入道前右大臣（洞院公泰）
44首 - 中務卿尊良親王
40首 - 前中納言為忠（二条為忠）
28首 - 関白左大臣（二条教頼）
27首 - 中院入道一品（北畠親房）
26首 - 右近大将長親母
25首 - 右近大将長親（花山院長親）
24首 - 春宮大夫師兼（花山院師兼）
20首 - 新待賢門院（阿野廉子）、新宣陽門院（憲子内親王？）、前内大臣隆（四条隆俊）、前大納言光任（中御門光任）
18首 - 入道前右大臣（北畠顕能）
17首 - 嘉喜門院（藤原勝子？）
16首 - 二品法親王聖尊、祥子内親王、権中納言経高（中御門経高）、権中納言経高母
15首 - 中宮、前内大臣顕（北畠顕統）

歌風

南朝の歌人は二条派に属しており、技巧的な歌が多いのが特徴です。しかし、羇旅、雑、哀傷の歌には、南朝の衰退という状況下での悲痛な心情が込められたものが多く見られます。特に、吉野朝の悲哀を歌ったとされる歌は、他の歌集にはない深遠な趣があります。この和歌集は、同時期に編纂された『神皇正統記』と対比されることもあり、「神皇正統記は文の新葉和歌集であり、新葉和歌集は歌の神皇正統記である」と言われることもあります。

諸本

現存する『新葉和歌集』の諸本には、初度本と奏覧本の2つの系統があります。初度本は、勅撰集としての形を整える前のもの、奏覧本は、長慶天皇に奏覧された際のものです。多くの写本は奏覧本系統に属していますが、流布本である承応板本は初度本系統です。

影響

南北朝合一後も、この和歌集は室町時代の歌人たちにも読まれましたが、公の場ではあまり取り上げられることはありませんでした。しかし、幕末には、南朝を正統とする水戸史学の影響を受け、『神皇正統記』と共に尊ばれました。坂本龍馬もこの和歌集を探し求めたという逸話があります。戦前・戦中期には、皇国史観のもとで研究が盛んに行われましたが、戦後以降の研究は比較的少ないです。

参考文献

正宗敦夫 編『神皇正統記・新葉和歌集』日本古典全集刊行会、1937年。
立命館大学文学部研究室編 『校註富岡本 新葉和歌集』立命館出版部、1938年
川田順 『吉野朝の悲歌』第一書房、1939年
岩佐正校訂『新葉和歌集』岩波文庫、初版1940年
井上宗雄 『中世歌壇史の研究 南北朝期』明治書院、初版1965年。
『新編 国歌大観 第1巻 勅撰集編』角川書店、1983年
小木喬 『新葉和歌集―本文と研究』笠間書院、1984年
井上宗雄校注・訳 『中世和歌集 新編日本古典文学全集49』小学館、2000年
森茂暁 『南朝全史―大覚寺統から後南朝へ』講談社選書メチエ、2005年
深津睦夫・君嶋亜紀校注『新葉和歌集 和歌文学大系44』明治書院、2014年

関連項目

『太平記』
『李花集』
『新続古今和歌集』
『桜雲記』
師成親王
榊原忠次

外部リンク

『新葉和歌集 全』 - Google ブックス
『新葉和歌集（国民文庫）』 - Google ブックス
『新葉和歌集（有朋堂文庫）』 - 国立国会図書館のデジタル化資料
ドナルド・キーン 「新葉集」
* 新葉和歌集 秀歌選（やまとうた）

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