航研機

航研機（こうけんき）

航研機は、日本の航空史における重要な実験機であり、1938年に世界の長距離飛行記録を樹立しました。この機体は東京大学附属の航空研究所によって設計され、大日本帝国陸軍の協力のもと開発されました。

名称の起源

本機には最初から名が存在したわけではありません。新聞などで「航空研究所試作長距離機」と呼ばれていたため、その略称「航研機」が広まり、現在ではこの名が正式名のように認識されています。記録樹立時に制作された映画では、英名が「Koken Long-range monoplane」と名付けられ、英語圏では「Kōken-ki」や製作会社に由来する「Gasuden Kouken」でも知られています。また、この機体は「真紅の翼」とも称され、特に特徴的なデザインと色彩を持っていました。

開発の背景

航研機の開発は東京帝国大学附属航空研究所にて行われました。この研究所は、航空機の軍事的な重要性が認識される中で、1918年に設立されました。1921年からの五カ年計画に基づいて航空研究は拡充され、1932年にはディーゼルエンジンを用いた長距離飛行計画が文部省に承認されました。その後、1933年から本格的に設計と開発が進められました。

当初はディーゼルエンジンを計画していましたが、技術的に成熟していなかったため、既存のガソリンエンジンを改良することに注力しました。1932年12月、最初の設計会議が行われ、1934年に本格的な製造が始まります。1937年には機体が完成し、初飛行が行われました。その後、試験飛行や各種性能向上のための改修が続けられました。

機体の構造

航研機は流体力学を考慮した設計が特徴です。主翼は単桁構造で、胴体はジュラルミン製、動翼部は布張り仕様です。特に不時着時の視認性を考慮し、翼の一部に赤色塗装が施されました。空気抵抗を減少させるため、片持式で支柱や張線を排除した設計が採用されています。加えて、完全引込式の着陸装置や、風防を折りたたむことで視界を確保する操縦席が工夫されています。

世界記録の樹立

航研機の周回飛行コースは、木更津飛行場を起点に多様な地点を結ぶものでした。1938年5月13日、航研機は62時間22分49秒の飛行時間で29周を達成し、周回航続距離11,651.011km及び1万kmコース平均速度186.197km/hの2つの世界記録を樹立しました。この業績は日本航空史において国際航空連盟に公式に認定された唯一の記録となっています。

記録樹立後の歴史

航研機の成功は全国的に報じられ、日本郵政はその偉業を記念する切手を発行しました。しかし、終戦後、この機体はGHQによって軍用機として扱われ、破棄される運命にありました。現存せず、その後の追跡調査によって地中に埋まっていると考えられています。その一方で、青森県立三沢航空科学館には航研機のレプリカが展示され、歴史を振り返る貴重な資料となっています。さらには、関係する施設や設備も一部残され、当時の航空技術の偉業を今に伝えています。

基本情報

航研機の基本的な特長は以下の通りです：

• - 全長: 15.06 m
• - 全幅: 27.93 m
• - 全高: 3.6 m
• - 自重: 4,225 kg
• - 最大速度: 260 km/h
• - 巡航速度: 180-200 km/h
• - 乗員数: 3 名

航研機は、日本の航空技術の結晶として、長距離飛行の重要性を示す象徴的な存在となりました。この機体の開発とその歴史は、今も多くの人々の記憶に刻まれています。

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