船窪岳

船窪岳

船窪岳（ふなくぼだけ）は、飛騨山脈（北アルプス）の主稜線の一つである後立山連峰の南部に位置する山です。この山は富山県富山市と長野県大町市にまたがっており、県境をなす山として知られています。

船窪岳の標高については、複数の表記が存在します。一般的に、特に長野県大町市などで用いられるのは、「第2ピーク」とされる2459メートルです。しかし、国土地理院が発行する地形図上では、山頂から南西にわずかに下った船窪乗越（ふなくぼのっこし）のあたりにある2303メートルのピークに「船窪岳」と記載されています。実際には、この2303メートルのピークと2459メートルのピークの双方に山名標識が設置されており、どちらを「山頂」と見なすかで標高の認識に違いが生じています。

山名の由来は、船窪乗越周辺の稜線が、あたかも巨大な船の底が窪んだような独特の地形を形成していることに由来しています。

豊かな自然植生

船窪岳の山域には、山頂に至るまで広くオオシラビソの針葉樹林が広がっており、四季を通じて深い緑に覆われています。特に夏季には、山の斜面の一角でニッコウキスゲの大規模な群落が見事な黄色い絨毯を織りなし、訪れる者の目を楽しませてくれます。

登山ルートと難易度

船窪岳への主な登山ルートは二つあります。

一つは、長野県側の七倉温泉を起点とするコースです。このルートでは、まず「鼻付八丁（はなつきはっちょう）」と称される特に険しい登りを含む七倉尾根をたどります。稜線に出ると、眼下に高瀬湖、そして遠くには槍ヶ岳や裏銀座縦走路といった北アルプスの名峰群を一望できる「天狗の庭」と呼ばれる絶好の展望地が現れます。さらに進むと、七倉岳山頂近くの稜線上に建つ船窪小屋に至ります。船窪岳山頂へは、ここから一度大きく標高を下げた後、再び登り返す必要があります。

もう一つのルートは、富山県側の黒部湖右岸、針ノ木谷からアプローチするコースです。このコースでは、船窪谷を遡上し、左手の尾根に取り付いて高度を稼ぎます。船窪乗越のあたりで七倉岳から続く縦走路と合流し、そこから西へと山稜をたどることで船窪岳に至ります。

ただし、船窪岳の登山道、特に山頂が近づくにつれて、その様相は一変します。コース中には、不安定な岩場を通過するためのワイヤーロープや垂直に近い梯子が幾度となく設置されており、注意深い通過を要します。また、足元は風化が進み、小砂利が波打つように崩れやすい箇所が点在しています。これらの要因から、船窪岳への登山は高度な技術と慎重さが求められる上級者向けの難コースとして知られています。

厳しい地形と独特の標高表記を持つ船窪岳は、後立山連峰の中でも特に挑戦しがいのある山の一つと言えるでしょう。

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