良い子のしつけ方

いたずら坊主と困った隣人：アニメーション短編『良い子のしつけ方』の世界

1953年、[メトロ・ゴールドウィン・メイヤー]より公開されたアニメーション短編『良い子のしつけ方』(原題：WEE WILLIE WILDCAT)は、ディック・ランディー監督によるユーモラスな作品です。一見、いたずら好きな子供とそれを諭す大人の物語ですが、その奥にはしつけの難しさや、世代間のズレといった普遍的なテーマが隠されています。

物語の中心は、庭仕事に勤しむクマのバーニーと、隣家のヤマネコの父子、ウィリアムとウィリーです。ウィリーはいたずら好きで、父親のウィリアムを困らせています。ある日、ウィリアムがウィリーをしかる様子を目撃したバーニーは、自らウィリーの子育てに乗り出すことを決意します。

しかし、バーニーは「児童心理学」に基づいた教育を試みるものの、ウィリーのいたずらには全く歯が立ちません。バーニーのあらゆる試みは、ウィリーの巧妙な策略の前にことごとく失敗に終わり、逆に手痛いしっぺ返しを食らってしまうのです。

例えば、バーニーが優しく諭そうとすると、ウィリーはそれを逆手に取ったいたずらでバーニーを翻弄します。絵本を読もうとすると、ウィリーは絵本を勝手に書き換えたり、重要なページを破ったりします。バーニーは次第に冷静さを失い始め、最終的にはウィリーを懲らしめようとしてしまいますが、今度はウィリアムに「乱暴はよくない」とたしなめられるというオチが待っています。

この作品の見どころは、ウィリーのいたずらとその意外性です。単純ないたずらだけでなく、ウィリーは状況に応じて巧妙な策略を張り巡らし、バーニーを翻弄します。また、バーニーの奮闘ぶりも笑いを誘います。児童心理学を学んだはずのバーニーが、ウィリーに全く歯が立たない様は、子育ての難しさをコミカルに表現しています。

さらに、この作品は、世代間のギャップも巧みに描いています。ウィリアムは、体罰によってウィリーを懲らしめようとしていますが、バーニーはそれを良しとはしません。この対比によって、しつけに対する異なるアプローチが示され、視聴者に考えさせる余地を与えています。

音楽や背景も、作品全体の雰囲気を盛り上げています。スコット・ブラッドリーによる音楽は、テンポが良く、コミカルなシーンをさらに強調しています。また、ジョン・ディドリック・ジョンセンによる背景は、鮮やかで、見ている者の心を楽しくさせてくれます。

『良い子のしつけ方』は、単なる子供向けのアニメーション作品ではありません。いたずらの連続に翻弄される大人と、それを冷静に見つめる観客の双方に、笑いと同時に考えさせる余地を残す、深みのある作品と言えるでしょう。日本のテレビ放映では、TBS版の『トムとジェリー』の中で放映され、多くの視聴者に親しまれてきました。 この作品は、ディック・ランディー監督の代表作の一つであり、アニメーション史においても重要な位置を占める作品として評価されています。 当時としては高度なアニメーション技術と、普遍的なテーマの融合が、この作品を長きに渡って愛される名作たらしめていると言えるでしょう。

スタッフについても触れておきましょう。監督はディック・ランディー、制作総括はフレッド・クインビー。アニメーション制作には、マイケル・ラー、ウォルター・クリントン、グラント・シモンズ、レイ・パターソン、ロバート・ベントレーといった、MGMを代表するアニメーターたちが参加しています。脚本はジャック・コズグリフとリッチ・ホーガンが担当し、音楽はスコット・ブラッドリーが担当しています。これらの実力派スタッフ陣によって生み出された『良い子のしつけ方』は、まさに時代を超越した名作アニメーション短編と言えるでしょう。

もう一度検索