スコット・ブラッドリー

スコット・ブラッドリー：アメリカンアニメーションの黄金期を彩った作曲家

スコット・ブラッドリー (1891年11月26日 - 1977年4月27日) は、アメリカ合衆国の作曲家です。アーカンソー州ラッセルビル生まれで、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー (MGM) 製作の漫画映画、特に「ドルーピー」シリーズや初期の「トムとジェリー」シリーズの音楽で広く知られています。「トムとジェリー」のテーマ音楽も彼の作品です。

独学の才能と多様な音楽的影響

ブラッドリーはピアノ、オルガン、和声学を師事しましたが、作曲法とオーケストレーションは独学で習得しました。彼の音楽には、バッハへの深い傾倒が見て取れ、ブラームス、ストラヴィンスキー、ヒンデミット、バルトークといった作曲家からも多大な影響を受けています。

テキサス州ヒューストンの劇場で作曲家兼指揮者を務めた後、1926年にロサンゼルスに移り、ラジオ局の指揮者として活動を始めました。1930年代には演奏会用の管弦楽曲も作曲しています。1938年には、漫画音楽のモチーフを集めた組曲『カートゥーニア』がピエール・モントゥーの指揮で初演されました。

MGMと20年以上にわたるパートナーシップ

ブラッドリーはディズニーのピアニストとしてキャリアをスタートさせ、その後アブ・アイワークスの元で漫画映画音楽の作曲を始めました。1934年にはMGMの「ハッピー・ハーモニー」シリーズに参加し、1937年にはMGMが漫画映画部門を設立すると、ハーマン＝アイジングと共にMGMに入社しました。その後20年以上にわたり、MGM漫画映画の音楽制作をほぼ独占的に担当しました。

1957年にMGMの漫画映画部門が閉鎖された後も、CBSで放送された「トムとジェリー」の一部作品で音楽を担当しています。カール・スターリングと共に、アメリカン・アニメーション黄金期を代表する作曲家の一人と言えるでしょう。

映像と一体化した音楽表現

ブラッドリーの音楽の特徴は、アニメーションのあらゆる動きに緻密に合わせた音楽表現にあります。「忍び歩き」「階段を駆け上がる」「大笑いする」など、キャラクターの行動を楽音で細やかに表現しています。そのため、彼の音楽には音階の急激な変化、グリッサンドやトリルといった装飾的な演奏技法、過剰なビブラート、そして金管楽器の特殊奏法などが頻繁に用いられています。効果音と完全に一体化した音楽は、画面を見なくても何が起きているかが想像できるほどです。

基本的な曲調は、スウィング・ジャズと近代クラシック音楽を融合させたシンフォニックジャズ風です。ショパンの「葬送行進曲」からガーシュインの「パリのアメリカ人」まで、様々な楽曲を引用し、曲調が目まぐるしく変化することも特徴です。演奏難易度が高く、あるバイオリン奏者はブラッドリーの曲を「ハリウッドで一番難しい」と評したほどです。

ブラッドリーは小編成のオーケストラを用いており、ワーナー・ブラザース作品のような大編成オーケストラとは対照的です。管楽器と打楽器を多用する傾向があり、これはヒンデミット、ストラヴィンスキー、ガーシュインらの影響と、20世紀前半に流行した室内交響曲の影響が考えられます。

前衛的な技法の導入

ブラッドリーは当時の前衛音楽に造詣が深く、衝撃を表す効果音の代わりに不協和音を使用するなど、漫画音楽を前衛的技法の実験場として捉えていました。MGMの映画音楽作曲家だったカステルヌオーヴォ＝テデスコからレッスンを受け、『猫はやっぱり猫でした』ではシェーンベルクの十二音技法をさりげなく使用しています。

「トムとジェリー」シリーズとの連携

ブラッドリーが関わった「トムとジェリー」シリーズ（1940年-1958年）では、画面と音楽が完璧にシンクロしています。これは、制作の早い段階からブラッドリーが参加し、ジョセフ・バーベラが作成した詳細なディテールシートに従って作曲できたためです。シートには、キャラクターの動き、効果音、セリフ、そして3段の五線譜が記載されており、ブラッドリーはそれに基づいて音楽を作曲しました。

ウィリアム・ハンナやジョセフ・バーベラとは良好な関係を築いていましたが、テックス・エイヴリーとは相性が悪かったようです。ブラッドリーは音楽による物語性を重視する一方、エイヴリーは伴奏音楽が主張しすぎることを好まず、単純なメロディーを好んだためです。しかしブラッドリーはエイヴリーの要求に応えつつも、複雑な音楽を巧みに織り込んでいました。

未来への展望

ブラッドリーは、未来のアニメーション映画が、才能ある作曲家によるオリジナル音楽と芸術的な物語によって、一種の総合芸術となることを夢見ていました。セリフなしの『草と木のおどり』や、『ジェリー街へ行く』などは、彼の理想に近づいた作品と言えるでしょう。

参考文献

Daniel Goldmark, Tunes for Toons: Music and the Hollywood Cartoon
Roy M. Prendergast, Film Music: A Neglected Art
菊地成孔・大谷能生『アフロ・ディズニー2　MJ没後の世界』
細馬宏通『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか　アニメーションの表現史』
* 上水樽力『スコット・ブラッドリーの映像音楽における描写的技法』

その他

ブラッドリーが関わった「トムとジェリーのテーマ」は、1949年の作品で原型が登場し、その後徐々に完成形に近づいていきました。また、彼はフライシャー・スタジオの「ベティ・ブープ」シリーズやディズニーの「シリー・シンフォニー」シリーズにも参加しています。MGM映画『暴力教室』では、アニメーション版『ジャックと豆の木』の音楽も担当し、ビル・ヘイリーの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」を「トムとジェリー」で引用するなど、幅広い音楽性を持っていました。近年では、ジョン・ウィルソンやサイモン・ラトルらによるオーケストラ演奏でも彼の音楽が取り上げられています。

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