良成親王

良成親王：南北朝時代の南朝皇族、後征西将軍宮としての生涯

良成親王（よしなりしんのう/ながなりしんのう）は、南北朝時代から室町時代初期にかけて、南朝の皇族として生きました。後村上天皇の皇子と伝えられていますが、同時代の確実な史料にはその名が見当たらず、実在を疑問視する説も存在します。

しかし、征西将軍・懐良親王の後を継ぎ、九州における南朝勢力を率いた後征西将軍宮は、良成親王に比定するのが通説となっています。本記事では、後征西将軍宮としての事績を中心に、良成親王の生涯を解説します。

九州へ下向、南朝再興を目指す

正平21年/貞治5年（1366年）頃、良成親王は幼少にして九州の征西府（大宰府）へ下向し、親王宣下を受けます。正平24年/応安2年（1369年）には、伊予の河野通直のもとへ派遣され、所領訴訟の処理など領国経営に携わりました。この派遣は、四国管領・細川頼之が上洛した後に勢力を拡大する河野氏に対し、征西府が瀬戸内海の東上路を確保する目的があったと考えられています。

文中3年/応安7年（1374年）冬、隈部城へ戻った良成親王は、叔父である懐良親王から征西将軍職を譲られました。

託麻原の戦いと征西府の衰退

天授2年/永和2年（1376年）夏、良成親王は菊池賀々丸（後の武興・武朝）に擁され、肥前国府（佐賀市）へ出陣します。幕府方の今川貞世（了俊）の軍勢と対峙しますが、交戦には至りませんでした。天授3年/永和3年（1377年）1月、両軍は千布・蜷打で激突（肥前蜷打の戦い）。菊池軍は奮戦するも大敗を喫し、征西府の勢力は大きく後退します。

天授4年/永和4年（1378年）9月、良成親王は武興に奉じられ、託麻原（熊本市東部）で再び今川軍と戦います（託麻原の合戦）。菊池軍は一時苦戦を強いられますが、親王自らが陣頭に立って敵陣に突撃し、遂に今川軍を打ち破りました。しかし、これが南朝方が勝利した最後の大きな戦いとなり、征西府の勢威は長くは続きませんでした。

征西府の移転と南朝の終焉

託麻原の戦いの後、今川軍は肥後への侵攻を繰り返し、弘和元年/永徳元年（1381年）には隈部城と染土城が陥落。良成親王は武興とともに金峰山中の「たけ」（熊本市河内町岳）へ征西府を移します。当時の南朝は衰退の色を隠せず、良成親王と懐良親王、そして菊池氏の間で内紛も発生していました。

しかし、弘和3年/永徳3年（1383年）に今川方の相良前頼が帰順すると、南肥後の南朝勢力が息を吹き返し、元中元年/至徳元年（1384年）頃には宇土（熊本県宇土市）へ征西府を移転。元中2年/至徳2年（1385年）には、島津氏や禰寝氏など南九州の諸氏が相次いで今川方から離反しました。

その後も今川軍の攻撃は続き、元中7年/明徳元年（1390年）には宇土・河尻両城が陥落。良成親王は名和顕興を頼って八代（熊本県八代市）へ逃れ、高田に征西府を移します。しかし、元中8年/明徳2年（1391年）には八代城も陥落し、良成親王は今川軍との和睦を余儀なくされました。

中央では、元中9年/明徳3年（1392年）に南北朝合一が成立。良成親王はその後も征西府の再興を目指しますが、その消息を知り得る史料は少なく、間もなく30代半ばで薨去したと推測されています。

後征西将軍宮としての比定

良成親王は一般的に後征西将軍宮と比定されていますが、同時代史料には諱を明記した確実な史料が存在しません。近世には泰成親王とする説も有力でしたが、肥後熊本藩医の田中元勝が良成親王説を強く主張し、今日の通説となりました。

しかし、良成親王を後村上天皇の皇子とせず、懐良親王の嫡子と推定する見解も存在します。また、九州に下向した形跡が確認できないことから、消去法的に良成親王説が採用されているのが現状です。

良成親王の生涯は、南朝の衰退とともに、地方豪族との連携や転戦を余儀なくされた悲劇的なものでした。しかし、その名は後世にまで語り継がれ、現在も墓前では公卿唄や浦安の舞が奉納されています。

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