相良前頼

相良前頼：南北朝時代を駆け抜けた相良氏の当主

相良前頼（さがら さきより）は、生年不詳ながら南北朝時代に活躍した武将であり、相良氏の第7代当主です。父は第6代当主の相良定頼で、幼名は伊井之助、通称は近江守、法名は立阿と称しました。

家督相続と南九州の情勢

前頼が家督を継いだ時期については、応安元年（1368年）に父が隠居したためとも、応安5年（1372年）の父の死によるものとも言われていますが、詳しい経緯は明らかではありません。当時の南九州は南朝方が優勢であり、前頼も父の存命時から南朝側と内通していたとされます。

しかし、応安4年（1371年）に今川了俊が九州探題として下向してくると、情勢は一変します。応安5年（1372年）には了俊が大宰府を奪還し、肥後国への侵攻を試みて菊池氏と対峙しました。了俊は相良家の一族に恩賞を与えて懐柔し、相良左近将監や相良美作守らを服属させます。そのため、家督を継いで間もない前頼も、当初は北朝方に留まることになったと考えられます。

水島の変と相良氏の動向

天授元年（1375年）、征西大将軍の懐良親王が弟の阿蘇惟武へ大宮司職を世襲させたことに不満を抱いた阿蘇惟村が北朝方に転じます。これを受けて、了俊は惟村、前頼、美作守らに川尻を攻めさせました。戦況が幕府軍優勢に進む中、了俊は島津氏久に仲介を依頼して少弐冬資を暗殺するという水島の変を引き起こします。これにより、九州の有力御家人と九州探題との関係は悪化し、再び混乱状態に陥りました。一方、この水島の陣には相良一族から相良長時も参陣しており、撤退時には殿軍として活躍したため、今川仲秋から感状を受けています。

またこの頃、父定頼の宿敵であった多良木経頼が死去し、子の頼仲が後を継いでいます。

島津氏討伐と蓑原の合戦

天授2年（1376年）、了俊は島津氏久の討伐を計画し、子の今川満範を総大将として球磨に派遣しました。満範は前頼に、禰寝久清と伊集院久氏を味方に引き入れるよう依頼しますが、両者ともこれを拒否します。そこで満範は前頼と伊東氏祐と共に、日向国都之城の北郷義久を攻めますが、義久は弟の樺山音久と共に城を堅守しました。翌年、島津氏久・元久親子が救援に駆けつけ、蓑原の合戦が起こり、満範軍は大敗を喫し、前頼の弟である頼氏も戦死しました。しかし、薩摩守護の島津伊久が了俊に降伏し、氏久を牽制したため、薩摩・大隅・日向の三州は膠着状態に陥りました。

肥後平定と南朝への復帰

天授4年（1378年）、今川仲秋・大内義弘らが鎮西合戦で菊池武朝を破り、今川軍は肥後へ侵入します。武朝と良成親王は託麻原の合戦で奮戦しますが、南朝側の劣勢は明らかでした。了俊は八代の対応を前頼と伊久に任せ、阿蘇は惟村に治めさせ、全軍で菊池氏の本拠地へ迫ります。弘和元年（1381年）には隈府城を陥落させ、親王は染土城を放棄して退却しました。肥後には宇土・川尻に名和願興や阿蘇惟政らが残っていましたが、了俊は三州の平定を優先させました。満範は再び北郷義久の都城を攻めますが、攻略できず、平定は難航しました。一方で前頼は税所祐義と本田氏の於奴止利城を攻略し、日向に勢力を拡大しました。

その後、島津元久と伊久は了俊に降伏しましたが、これは形式的なものであり、両者は宇土・八代攻めへの参陣要請を無視し、九州探題の権威を軽んじ、直接室町幕府に従うという態度を取りました。了俊は禰寝氏に島津氏を監視させていましたが、手出しはできませんでした。

もともと南朝に心情的に近かった前頼は、九州における南朝方の衰退を憂い、永徳3年（1383年）に突如として南朝方に寝返り、征西将軍宮・良成親王より所領を安堵されました。至徳元年（1384年）、了俊は満範を助けるため家臣の宮内大輔三雄を二見に派遣しますが、翌年正月、前頼は名和氏に援軍を送り、これを撃破しました。驚いた了俊は渋谷重頼を援軍に差し向けますが、これも撃退されました。三州の両島津氏や禰寝氏も再び了俊に反抗的な態度を取り始め、南朝方は勢力を回復しました。これを評価した後亀山天皇は、前頼を肥前守護に任じ、仙籍を許しました。前頼はこれに感激し、忠勤を誓いました。

嘉慶元年（1387年）、前頼は度々出撃し、八代、葦北、天草で今川軍と戦い、その軍功を賞され、良成親王より肥前国小瀬庄を賜りました。

南北朝合一と最期

明徳3年（1392年）、足利義満によって南北朝合一が達成されると、良成親王と了俊の間にも和議が成立しました。前頼も了俊に帰順し、肥後では菊池氏や名和氏も武家側に降伏し、乱は鎮まりましたが、薩摩・日向・大隅では依然として戦乱が収まりませんでした。了俊は新たに第4子の今川貞兼を派遣して鎮定させようとしました。明徳4年、前頼はこの今川貞兼と共に日向国に侵攻し、都城方面を目指して進出しました。

明徳5年正月、貞兼と前頼は、伊東氏、土持氏、北原氏らと共に、北郷氏の一族が守る野々美谷城を落とし、梶山城を攻撃しました。都之城から北郷久秀・忠通・知久兄弟が救援に駆けつけますが、梶山城は陥落し、久秀と忠通は戦死しました。これを聞いた島津元久は軍勢を率いて急襲しました。この樺山城合戦で今川軍は敗れ、貞兼は東の飫肥城に、前頼は西の野々美谷城に逃れました。嫡男を殺された北郷義久は激怒し、相良勢を追い詰め、そのまま城を強襲しました。体制が整わないまま戦った前頼は、弟の丸目頼書、丸野頼成、青井前成らと共に討ち死にしました。

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