立山修験

立山修験とは

立山修験は、富山県の立山を中心に行われた修験道です。立山は古くから霊山として信仰され、山岳信仰の対象となってきました。仏教においては、立山の雄山などを極楽浄土、地獄谷を地獄に見立てて描いた『立山曼荼羅』が用いられました。この曼荼羅を携えた岩峅寺や芦峅寺の御師たちが、江戸時代に日本各地を巡り、立山への参詣を勧めたことで、その信仰は広く知られるようになりました。

立山修験の世界観

立山修験の世界観は、今日に伝わる『立山曼荼羅』に描かれた世界から窺い知ることができます。立山の麓には、岩峅寺や芦峅寺といった信仰登山の拠点がありました。幕末の最盛期には、立山を管理していた岩峅寺の集落には24の宿坊、芦峅寺の集落には33の宿坊が存在しました。これらの宿坊に住む人々を中心に、全国への勧進活動が行われ、その影響は江戸城大奥にまで及んだとされています。

女性と立山信仰

立山は女人禁制であったため、江戸時代までは、入峰を許されない女性のために、芦峅寺で「布橋灌頂会」という特別な行事が行われていました。3年に一度開催され、目を布で覆った女性たちが橋に敷かれた白い布の上を歩いて渡ることで、極楽往生できると信じられていました。この行事は、明治時代の廃仏毀釈によって一時途絶えましたが、1996年より地元住民らの手によって復活しました。

立山開山の縁起

鎌倉時代から江戸時代にかけて成立した立山の開山縁起によれば、大宝元年（701年）に、越中国国司とされる佐伯有若の息子、佐伯有頼が白鷹を追って立山の奥深くに入り、阿弥陀三尊を仰ぎ見たとされます。その後、慈興と号した有頼は、立山大権現を岩峅寺に建立したと伝えられています。

立山信仰の背景

立山信仰の背景には、山上に他界が存在するという信仰がありました。立山の山域の各所は、開山伝説に基づいて、浄土と地獄にそれぞれ比定されました。立山を巡拝することで、死後の世界を擬似的に体験し、形式的に「他界」に入り、「死」から戻ってくるという修行を積むことができ、それによって超常的な力（法力）を身につけることができると考えられていました。

立山浄土と立山地獄

立山浄土としては、立山三山、特に雄山は仏そのものであり、阿弥陀如来の仏国土である極楽浄土の象徴とされました。一方、立山地獄は、現在の地名にも残る地獄谷であり、硫黄の匂いが立ち込める場所でした。その近くにあるみくりが池は血の池として、また剱岳は針山地獄として恐れられていました。

立山修験の意義

立山修験は、単なる山岳信仰にとどまらず、死と再生、そして超常的な力を得るための修行の場として、人々に深く信仰されていました。その世界観は、『立山曼荼羅』という形で現代にまで伝えられ、多くの人々に影響を与え続けています。

参考文献

沼賢亮「立山信仰と立山曼荼羅」（『仏教芸術』68、1968年）
福江充『立山信仰と立山曼荼羅:芦峅寺衆徒の勧進活動』(『日本宗教民俗学叢書』4、岩田書院、1998年）ISBN 4872941063
佐伯史麿『立山修験発心門』（北日本新聞社、2005年）
福江充『立山曼荼羅:絵解きと信仰の世界』（法藏館、2005年）ISBN 483187440X
福江充『立山信仰と布橋大灌頂法会:加賀藩芦峅寺衆徒の宗教儀礼と立山曼荼羅』（桂書房、2006年）ISBN 4903351181
福江充『近世立山信仰の展開:加賀藩芦峅寺衆徒の檀那場形成と配札』（岩田書院、2002年）ISBN 4872942493
福江充『江戸城大奥と立山信仰』（法蔵館、2011年）ISBN 4831874361
福江充『立山信仰と三禅定:立山衆徒の檀那場と富士山・立山・白山』（岩田書院、2017年)ISBN 4866020091

関連項目

立山権現
善知鳥（うとう）

もう一度検索