芦田行雄

芦田行雄：郷土史と古代米研究に生涯を捧げた情熱家

芦田行雄（1925年 - 2012年）は、京都府京丹後市出身の郷土史家です。生涯を故郷の文化研究に捧げ、特に戦国時代の武将・細川忠興の妻であるガラシャ（明智玉）の隠棲に関する資料研究や、古代米の復活栽培に情熱を燃やしました。

生涯と郷土への貢献

1925年、京都府竹野郡鳥取村和田野（現在の京丹後市弥栄町和田野）に生まれた芦田は、郷土の歴史と文化に深い関心を抱き、その研究に生涯を費やしました。弥栄町文化財保護委員会の設立に参画し、14年間会長を務めたほか、弥栄町文化協会を設立し、20年以上にわたり会長として地域文化の振興に尽力しました。

味土野と細川ガラシャ

芦田がガラシャに関心を持ったきっかけは、母親がガラシャの隠棲地碑の建立活動に関わっていたことでした。小学6年生の頃からガラシャについて学び始め、1955年頃に初めて味土野を訪れた際、史実を保存することの重要性を痛感。以来、ガラシャに関する資料や口伝の収集に努め、案内パンフレットの作成や現地ガイドも行いました。1982年には、行待迪が1935年に刊行した冊子『細川忠興夫人』に補筆し、『増補 細川忠興夫人』を刊行。2000年には、長年の研究の集大成として『味土野讃歌』を刊行しました。

古代米研究と赤米の復活

芦田のもう一つの大きな功績は、古代米、特に赤米の復活栽培です。1965年、平城京跡から出土した木簡に「丹後国竹野郡芋野郷婇部古与曾赤舂米5斗」と記されていたことから、古代の丹後地方で稲作が盛んであったことを知りました。この赤米に興味を持った芦田は、約5年の調査を経て、岡山県で細々と栽培されていた赤米の籾種を入手。1981年から試験栽培を開始しました。

農業経験が全くなかった芦田は、自宅の庭先での栽培に加え、京都府立峰山高等学校弥栄分校の協力を得て栽培に取り組みました。化学肥料や農薬を一切使用しない古代の農法を再現し、その結果、予想を上回る収穫を得ることができました。収穫した赤米で試食会を開催したところ、その美しさに魅了された芦田は、栽培を継続。種籾を惜しみなく提供し、全国に赤米愛好家を増やしていきました。芦田の自宅兼活動拠点である「古与曾」は、田植えや稲刈り後の慰労の場となり、地域活動の拠点としても利用されるようになりました。

日本古代稲研究会とあかごめ学校

1988年、芦田は「日本古代稲研究会」を発足させ、初代会長に就任しました。それまで一部の試験場で研究されていたに過ぎなかった赤米を、食用として一般に栽培されるように道を開いたのです。1994年には、赤米愛好家による「あかごめ学校」を設立し、主宰を務めました。毎月発行するミニコミ誌「あかごめがっこう」を通じて、赤米に関する情報を全国に発信しました。会員数は、芦田の没年には約210名にまで増加しました。

芦田は、地元小学校での指導や講演会などを通じて、古代米の普及に尽力。2003年からは、京都府の農業公園「丹後あじわいの郷」で古代米の栽培体験指導も担当しました。また、奈良市で開催された光明皇后1250年遠忌法要では、古代の故事にちなんで、自ら栽培した古代米を献納しました。さらに、古代米に含まれる有用成分の研究にも携わり、そのルーツを探るために中国雲南省まで足を運ぶなど、その情熱は衰えることがありませんでした。

芦田が栽培した古代米の品種は、翠玉、紫陽、黒法師、赤富久糯、紫稲など16種類にも及びました。

遺志を継ぐ人々

2011年秋の収穫祭を機に、弥栄町における赤米栽培は「芋野郷赤米保存会」に引き継がれましたが、芦田は亡くなる直前まで赤米栽培に関わっていました。2012年6月に体調を崩し、同年8月12日、肺がんのため87歳で亡くなりました。死後の2014年、京丹後市は市政10周年記念式典で、芦田を功績者として表彰しました。

芦田の遺志は、多くの人々に受け継がれています。あかごめ学校の生徒であった安本義正は、「赤米博物館」の開設に貢献し、古代米の資料を寄贈しました。芋野郷赤米保存会は、芦田から譲り受けた種籾をもとに、現在も古代米の栽培を続けています。また、峰山町では、芦田から譲り受けた赤米を染料とする取り組みも行われています。

著書

『味土野讃歌 細川忠興夫人資料集』(あまのはしだて出版、2000年)
『増補 細川忠興夫人』(あまのはしだて出版、1982年)
* 『京都府・丹後やさかの昔話 吉津の穴地蔵』(あまのはしだて出版、1990年)

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