芸術アカデミー

フランス芸術アカデミー：歴史と影響

フランス学士院に属する芸術アカデミー（Académie des Beaux-Arts）は、フランスにおける芸術の発展に重要な役割を果たしてきました。その起源は、徒弟制度下の職人組合から、芸術を学問として捉えようとした芸術家たちの自由な集まりに遡ります。彼らは後に国王直属の機関となり、国家の芸術政策の中核を担う存在となりました。

王立アカデミーから芸術アカデミーへ

フランス革命以前には、絵画彫刻アカデミー（1648年設立）、音楽アカデミー（1669年設立）、建築アカデミー（1671年設立）の3つの王立アカデミーが存在していました。これらのアカデミーは、芸術家の育成、表彰、作品展示といった特権を独占し、フランスの芸術界を牽引しました。

1791年のフランス革命議会により王立アカデミーは一度廃止されましたが、1795年に再興、1816年には「芸術アカデミー」として統合されました。この統合により、芸術分野全体を包括する組織として新たなスタートを切ることとなりました。

アカデミー制度の三本柱

芸術アカデミーの中核を成すのは、以下の三つの要素です。

1. エコール・デ・ボザール（美術学校）: 17世紀の王立アカデミー付属学校を起源とし、1819年に絵画・彫刻・建築部門が統合された国立美術学校です。伝統的な技法を重視した教育が行われ、多くの芸術家を輩出してきました。1968年の五月革命以降、組織の再編が行われました。

2. ローマ大賞: 1803年に創設されたコンクールで、絵画、彫刻、建築、音楽の各分野から毎年1名が選ばれ、ローマへの留学資格が与えられました。現在は廃止されていますが、フランスの芸術家育成において重要な役割を果たしました。

3. サロン（展覧会）: 1667年に絵画・彫刻アカデミーが始めた作品展が起源です。当初はアカデミー会員による審査制でしたが、フランス革命後、一般の画家にも開放され、若手芸術家の登竜門となりました。しかし、審査員が新古典主義的な美学や貴族の趣味に偏っていたため、次第に保守化の傾向が強まりました。

サロンへの反抗と近代美術の誕生

19世紀に入ると、サロンの保守的な審査への不満が高まりました。1863年には、落選作品を集めた「落選展」が開催され、マネの「草上の昼食」がスキャンダルを巻き起こし、話題となりました。その後、1874年には印象派が独自の展覧会を開催し、1884年には無審査のアンデパンダン展、1890年には国民美術協会主催のサロンも開催されるようになり、多様な芸術表現が生まれる土壌が作られていきました。

印象派などの新しい芸術潮流は、アカデミーが教える技巧優先の保守的な美術を「アカデミック」と批判しました。アカデミーに属さない美術家たちは、独自のグループや結社を組み、個展やグループ展を通じて新たな表現を追求しました。20世紀に入り、これらの近代美術の画家たちの評価が高まる一方で、アカデミックな作風を貫いた画家たちは次第に忘れられる存在となりました。

サロンの現在と未来

官展の流れを汲むサロン（ル・サロン、フランス芸術家協会展）は現在も開催されていますが、芸術の中心がパリからニューヨークに移ったこともあり、かつてほどの大きな影響力は失われています。近年では、グラン・パレの改修に伴い、複数のサロンが合同で開催されるSalon EN CAPITALが開催されるようになり、サロンの巻き返しが期待されています。また、2008年には、フランス学士院総裁により、版画をテーマにした展覧会が開催され、現代の版画家の活躍も紹介されています。

日本人会員

芸術アカデミーは、フランスの芸術に貢献した外国人にも会員資格を与えており、日本人にも会員（正会員・準会員）がいます。氏家齊一郎氏は、日本でのフランス美術展覧会の主催、ルーブル美術館への出資などの功績により選出されました。本会員は、毎週木曜日のアカデミーの会議等への出席が義務付けられています。過去には、建築家の丹下健三、読売新聞名誉会長の小林與三次、指揮者の小澤征爾、日本テレビ放送網会長の氏家齊一郎などが会員に選ばれています。

芸術アカデミーは、フランスの芸術の歴史を体現する存在であり、その活動は現代の芸術にも大きな影響を与えています。

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