若尾氏

若尾氏

若尾氏（わかおし）は、日本において歴史を持つ氏族の一つです。その起源や系統には複数の流れがあると伝えられています。

「ワカ」の意味と神社の関連

氏の名前に関連する可能性として、東北地方の岩城や陸前といった地域の方言において、「ワカ」という言葉が「巫女」を意味することが挙げられます。この言葉は、神道における神職や神事に携わる家系にしばしば見られる名前に含まれることがあるため、若尾氏の一部がかつて神社の家系と関連していた可能性も指摘されています。

主な系統

若尾氏には、主に以下の二つの系統が知られています。

若尾三郎系

この系統は、甲斐国巨摩郡にあった中世の郷である若尾郷（現在の山梨県韮崎市にあたる地域）を発祥の地としています。伝えられるところによれば、諏訪大社の大祝（おおほうり、最高神官）であった神為中の孫にあたる秀遠という人物が「若尾三郎」と称したことから、この系統の祖とされています。彼の子孫は、この地から広がり、山梨県や長野県を中心に、関東地方や三重県にも分布しています。

戦国時代には、この系統の中から武田氏の家臣となる者も現れました。特に、武田氏に仕えた若尾清信の子孫からは、明治時代以降に日本の産業や政治において重要な役割を果たした人物が輩出されています。例えば、貴族院議員を務めた若尾逸平や、生糸貿易で大きな功績を上げた実業家の若尾幾造などがこの家系から出ています。これは、若尾氏が単なる武士の家系に留まらず、時代に応じて様々な分野で活躍の場を見出したことを示しています。

清原流

もう一つの主要な系統は、清原氏の後裔と伝えられています。この流れは、平安時代後期の1057年（天喜5年）9月に始まるとされます。清原道雄から数えて6代目の子孫にあたる典厩新全（てんきゅうしんぜん）という人物が、甲斐国北巨摩郡にあった中世の郷、逸見郷（現在の山梨県北杜市周辺にあたる地域）に移り住んだことに端を発します。

典厩新全の子は小島新雄（こじまあらお）と名乗り、その子孫は代々小島姓を称していました。しかし、時代が下り16世紀、戦国時代に差しかかる頃、小島清信という人物が武田氏から軍功などの褒美として若尾村を与えられたと伝えられています。これを機に、彼は姓を小島から若尾に改めたとされており、これが清原流若尾氏の始まりと考えられています。

この系統の存在は、若尾氏が単一の起源ではなく、複数の源流を持つ可能性があることを示唆しています。武田氏からの土地の拝領が改姓のきっかけとなった点は、当時の武家社会における氏族形成や改姓の動向を理解する上で興味深い事例と言えます。

その他の若尾氏

上記の二つの主要な系統の他にも、若尾氏の存在を示す記録がいくつか見られます。例えば、武田氏の系図の中には、「若尾兵部」という人物の名前が登場します。この人物が前述の若尾三郎系または清原流のいずれかに属するのか、あるいは別の系統であるのかは明らかではありませんが、武田氏との関連性を示唆する重要な史料です。

また、江戸時代には、紀伊藩（現在の和歌山県および三重県の一部を領有した藩）の藩士の中にも若尾氏の名前が確認されています。これは、若尾氏が甲斐国だけでなく、日本の他の地域にも移り住み、それぞれの地で歴史を刻んでいったことを示しています。

これらの記録から、若尾氏は甲斐国を中心に発展しつつも、戦乱や時代の変化に伴い各地へと広がり、多様な背景を持つ人々によって構成されていった氏族であったことがうかがえます。

注: 本記事は、年賀郵便ゆうびんjp「ニッポンの名字」、城郭巡行記などを参考に記述しています。

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