若竹座

若竹座（わかたけざ）は、かつて静岡県静岡市七間町に存在した芝居小屋です。その歴史は、芝居小屋から映画館へと変遷を遂げた、静岡の演劇・映画文化を象徴する場所でした。

歴史

沿革

1870年（明治3年）8月 - 新門辰五郎が芝居小屋・玉川座を建設。
1871年（明治4年） - 小川鉄太郎が座主を引き継ぎ、小川座と改称。
1887年（明治20年） - 高橋鉄太郎が引き継ぎ、若竹座と改称。
1897年（明治30年）6月15日 - 静岡初の活動写真上映を実施。
1922年（大正11年）頃 - 千鳥座、入道館、立花館、明治館と共同で東海演芸株式会社を設立。
1940年（昭和15年）1月15日 - 静岡大火により焼失。その後、常盤劇場として再建。
1942年（昭和17年）8月 - 静活に営業権を譲渡し、松竹座と改称。
1946年（昭和21年） - 戦争により焼失。
1948年（昭和23年）12月 - 洋画専門館として再建し、国際劇場が開館。
1963年（昭和38年）6月 - 国際劇場が閉館。

芝居小屋時代

玉川座

若竹座の起源は、江戸の火消し頭であった新門辰五郎が建設した玉川座に遡ります。徳川慶喜が宝台院での謹慎を解かれた際、一門とともに慶喜警護のため同行していた辰五郎は、興行を通じて明治維新後の駿府に活気をもたらそうと考えました。当時、経営不振に陥っていた人形浄瑠璃・玉川広太夫座の興行権を得るため、辰五郎は清水の米問屋・綿伊に出資を仰ぎ、1869年（明治2年）に寺町3丁目に玉川座を復興。翌1870年（明治3年）8月のこけら落とし公演には、河原崎権十郎らが来演しました。

小川座

1871年（明治4年）に辰五郎が帰京すると、玉川座は小川鉄太郎に譲渡され、小川座と改称されました。小川座は、甲府の三井座と並び有名な芝居小屋として、東京や大阪の大物役者や芸人が巡業し、人気を博しました。

若竹座

1887年（明治20年）6月20日、小川座の経営は高橋鉄太郎に移り、若竹座と改称されました。しかし、1889年（明治25年）12月12日、周辺地区への放火により若竹座は焼失。座主である高橋は再建を断念しましたが、元幕臣の大塚正寿が財界から資金を集め、当時の最新技術と材料を用いて七間町に再建されました。

1897年（明治30年）6月15日、若竹座ではエジソンの「ヴァイタスコープ」が上映され、静岡県で初めての活動写真上映が行われました。この出来事を記念して、6月15日は「静岡映画の日」と制定されました。当時の様子は、前島豊太郎の「観活動写真記」に詳しく記録されています。観覧料は4等級に分かれ、エジソンの工場風景、ナイアガラの滝、フランス陸軍の演習、ロシア皇帝の戴冠式、パリの街並み、ロイ・フラーの映像などが上映され、観客を驚かせました。

当時の静岡市内の寄席や芝居小屋は、ほとんどが木造の座敷であり、観客は履物を脱いで座布団に座って観劇していました。映画という言葉は昭和に入ってからのもので、それまでは「活動」と呼ばれていました。若竹座には、東京の弁士・駒田好洋が巡回し、人気を博しました。休憩時間には、プログラムや名場面のフィルムのコマも販売されていました。また、多くの活動館と同様に、客席の後ろには臨官席があり、制服の警察官がいました。入場料は、大人30銭または50銭で、2階席はさらに20銭高く、軍人と子どもは半額でした。

1940年（昭和15年）1月15日、静岡大火により若竹座は焼失。その後、常盤劇場として再建され、1942年（昭和17年）8月には営業権が静活に譲渡され、松竹座と名称が変更されましたが、5年後に再び戦火で焼失しました。

映画館転換後

終戦後の1948年（昭和23年）12月、元静活会長の小林英則を支配人として、県下唯一の座席指定ロードショーを行う国際劇場として再開館しました。洋画専門館として、『駅馬車』、『静かなる男』、『西部の人』、『カルメン』、『ハムレット』、『心の旅路』など、数々の名画を上映しました。また、タイアップ企画として、西部劇映画『黄色いリボン』にちなんだ「ミス黄色いリボンコンテスト」などを開催しました。1958年（昭和33年）当時の座席数は624席でした。

1963年（昭和38年）6月に国際劇場は閉館し、その跡地には現在、高層マンションが建設されています。

静岡市にかつてあった主な芝居小屋・映画館

若竹座
千鳥座
開情亭 - 入道館 - 花月劇場
立花亭 - 立花館 - アサヒニュース中央劇場
明治座 - 明治館 - 銀映座 - 松竹館
満水亭
朝日座
文楽館 - コドモ館
富士館
世界館 - 帝国館 - 松竹館 - 衆楽館
パテー館
キネマ館 - 新興劇場
電気館 - 静岡大映
歌舞伎座

脚注

参考文献

静岡新聞社出版局編『静岡大百科事典』静岡新聞社、1978年。
静岡新聞社編『なつかしの静岡』静岡新聞社、1982年。
静岡出版／編「季刊静岡の文化」第28号、静岡県文化財団、1992年。
「静岡映画館物語」編集委員会編『映画館わが青春のスクリーン静岡映画館物語』斉藤隆、2009年。

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