英 (春秋)

周代の諸侯国「英」：楚の成王による滅亡まで

中国古代、周王朝時代において、数多くの諸侯国が存在しました。その一つに、英（えい）という国がありました。本稿では、史料に基づき、英の成立から滅亡までの歴史を詳細に検討します。

英の起源は、古代中国の著名な人物である皋陶（こうとう）の後裔に遡ります。皋陶は、堯舜禹の時代から伝わる伝説的な人物であり、その優れた知恵と正義によって知られています。英という国は、皋陶の子孫によって建国されたと伝えられています。建国時期については明確な史料がなく、今後の研究が待たれますが、周代の諸侯国として、一定の勢力を持っていたと考えられます。

周代の諸侯国は、周王朝の支配下にありましたが、その実態は必ずしも統一的ではありませんでした。諸侯国同士の抗争や、周王朝の権威の衰退など、様々な要因によって、勢力図は常に変動していました。英も例外ではなく、周辺諸侯国との関係の中で、その存続をかけて様々な困難に直面したと考えられます。

春秋時代に入ると、英は楚という強大な勢力圏を持つ諸侯国に影響を受けるようになります。楚は、中国南部を勢力下に置く大国として、周辺諸侯国を服属させ、その支配を強めていきました。英も楚の属国となり、楚の支配下で存続することになります。しかし、この属国としての立場は、英にとって決して安定したものではありませんでした。楚の支配は厳しく、英は常に楚の圧力にさらされることになります。

『史記』巻14「十二諸侯年表」によると、楚の成王惲（うん）は、在位26年目に英と六（りく）という二つの諸侯国を滅ぼしました。この記述は、英が楚によって滅ぼされたことを明確に示しています。滅亡の正確な経緯については『史記』には詳細な記述がありませんが、楚の軍事力の前では、英は抗しきれなかったと考えられます。英の滅亡は、春秋時代における楚の勢力拡大を象徴する出来事の一つと言えるでしょう。

英の滅亡後、その領土は楚に併合され、英という国は歴史から姿を消しました。しかし、英の歴史は、周代の諸侯国の興亡を理解する上で重要な事例として、後世に伝えられています。わずかな史料から、その実像を明らかにすることは容易ではありませんが、皋陶の後裔という建国神話、そして楚による滅亡という歴史的運命は、英という国の存在を、中国古代史の重要な一ページとして刻み込んでいます。今後の研究によって、英に関する新たな知見が得られることを期待したいです。

参考文献

* 『史記』巻14「十二諸侯年表」

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