范蠡

范蠡：越王勾践を支えた名臣とその波乱の人生

范蠡は、中国春秋時代、越の国で活躍した卓越した政治家にして軍師でした。その生涯は、知略と勇気、そして富と隠退という、ドラマチックな展開に満ち溢れています。生没年さえはっきりとは分かっていませんが、越王勾践の最側近として仕え、弱小国であった越を春秋五覇の一国へと押し上げた立役者として歴史に名を残しています。

越の危機と范蠡の奇計

范蠡の出生地や越への仕官の経緯は不明瞭な点が多く残されています。当時の越は、隣国呉の圧倒的な軍事力に脅かされていました。呉は伍子胥や孫武といった名将を擁し、強大な勢力を誇っていたのです。越王允常の治世において、范蠡は既にその才能を発揮し、国の発展に貢献していましたが、允常の死後、勾践が即位すると、呉は越への侵攻を開始します。

欈李の戦いは、范蠡の軍事的な才能が光る場面でした。寡兵であった越軍は、范蠡が考案した奇計を用います。それは、敢死隊を敵陣へ送り込み、自決させることで呉軍を混乱に陥れるというものでした。この奇策によって呉軍は大きな損害を受け、呉王闔閭は戦死、夫差が新たな王位につきます。

復讐と呉の滅亡

呉の復讐を恐れた勾践は、呉への攻撃を計画しますが、范蠡はこれを諫めます。しかし、勾践の攻撃は失敗に終わり、越は屈辱的な敗北を喫します。勾践は呉へ人質として送られ、苦難の日々を過ごしますが、范蠡と文種は勾践の帰国後、着実に呉を滅ぼす計画を進めます。范蠡は巧妙な策略で呉の内部を混乱させ、夫差の側近に賄賂を送り、忠臣伍子胥を陥れて殺害させました。

呉の権力基盤が揺らぎ始めた頃を見計らい、范蠡は勾践に呉への攻撃を促します。呉の大軍が遠征している隙を突き、越軍は一気に呉を攻め滅ぼしました。夫差は敗走しますが、范蠡の進言により、勾践は夫差を殺害する事を決断し、呉は滅亡しました。

隠退と伝説

呉を滅ぼした後、范蠡は勾践の専制的な様相を憂慮します。古くからの故事「狡兎死して走狗烹られ、高鳥尽きて良弓蔵る」を勾践に当てはめ、自らの身を危険に晒すことを危惧したのです。

范蠡は勾践に仕える文種にも手紙を送り、越からの脱出を促しました。しかし文種は、勾践の疑念を招き、自害に追い込まれることになります。

越を脱出した范蠡は、斉で「鴟夷子皮」と名を変え、商人として巨万の富を築きました。その後、宋の定陶に移り、「陶朱公」と名乗り、再び成功を収め、悠々自適の生活を送ったと伝えられています。その名は、後世の大商人たちのロールモデルとなりました。

評価と影響

范蠡の生涯は、優れた政治家・軍師としての才能だけでなく、富と名声を得ながらも、危険を察知し、潔く身を引く英断を示しています。その出処進退は、後世の人々から長く称賛され、多くの作品にも題材として取り上げられています。 日本においても、范蠡は名臣として知られており、後醍醐天皇の時代にもその逸話が引用されています。

范蠡の物語は、成功と名声、そしてその後の賢明な退場という、理想的な人生の在り方を示唆する、歴史に残る魅力的な物語として現代にも語り継がれています。彼の知略と決断力は、現代においても学ぶべき点が多くあります。

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