草鹿浅之介

草鹿浅之介（くさか あさのすけ）

概要

草鹿浅之介は、1900年10月25日に大阪で生まれた日本の法曹界の重鎮です。裁判官、検察官として長年司法の現場に携わり、最高裁判所判事を務めました。その生涯は、禅の思想や西田哲学の影響を受け、信念を貫いたものでした。また、家族や親友との深い絆も彼の人物像を語る上で欠かせない要素です。

生い立ちと教育

草鹿浅之介は、元第四高等学校ドイツ語講師で住友本社理事を務めた草鹿丁卯次郎の三男として誕生しました。兄には連合艦隊参謀長を務めた草鹿龍之介がいます。父・丁卯次郎は息子たちをそれぞれ「士農工商」の道に進ませようとしましたが、浅之介は法の道を選びました。浅之介という名前は、金沢の浅野川に由来します。

大阪偕行社付属小学校、大阪府立天王寺中学校を経て、第一高等学校に進学しました。一高時代には、後にジャーナリストとして活躍する尾崎秀実と親交を深めました。また、京都帝国大学法科では、後に総理大臣となる池田勇人と友人関係を築きました。学生時代には、父の友人である西田幾多郎からも薫陶を受け、その哲学は後の人生に大きな影響を与えたと言われています。

法曹界での活躍

1926年に司法官試補となった後、判事として東京地方裁判所や甲府地方裁判所に勤務しました。1939年には上海に派遣され、興亜院調査官などを務めました。戦後は検察官に転じ、函館地方検察庁検事正、千葉地方検察庁検事正、最高検察庁検事などを歴任しました。大阪高等検察庁検事長時代には、岸本義広選挙違反事件の指揮を執りました。

1962年には最高裁判所裁判官に就任し、1970年には仁保事件の裁判長として死刑判決を破棄する差戻し判決を言い渡しました。この判決は、法律問題だけでなく、被告が真犯人であるかという根本的な問題に焦点を当てたものでした。

最高裁判事退官後は弁護士として活動し、三島事件の盾の会弁護人やロッキード事件の田中角栄被告弁護団の最高顧問を務めました。

人物像と交友関係

草鹿浅之介は、酒を愛し、銀座の老舗寿司店「二葉鮨」の主人とは親交が深く、茶道裏千家とも深い関わりを持っていました。

一高時代の親友である尾崎秀実とは、思想的な立場の違いはありながらも、終生変わらぬ友情を育みました。尾崎がゾルゲ事件で逮捕された際には、裁判官として担当する可能性がありましたが、これを固辞し、密かに尾崎やその家族を支援しました。尾崎も、死の直前に浅之介に宛てた手紙の中で、彼の死生観について触れてほしいと述べています。

年譜

1900年（明治33年）10月25日 - 大阪にて出生
1925年（大正14年）12月 - 司法科試験合格
1926年（大正15年）4月 - 司法官試補
1927年（昭和2年）12月 - 東京地裁予備判事
1928年（昭和3年）10月 - 甲府地裁判事
1929年（昭和4年）8月 - 東京地裁判事
1935年（昭和10年）5月 - 東京刑事地裁兼東京民事地裁判事
1939年（昭和14年）5月 - 興亜院華中連絡部事務官
1940年（昭和15年）
1月 - 興亜院華中連絡部調査官
4月 - 中華民国派遣特命全権大使随員
10月 - 東京刑事地裁判事
1941年（昭和16年）1月 - 東京刑事地裁部長
1944年（昭和19年）11月 - 司法事務視察のため朝鮮満洲へ出張
1945年（昭和20年）6月 - 大阪地裁部長
1946年（昭和21年）
4月 - 大阪控訴院部長
7月 - 函館地検検事正
1947年（昭和22年）7月 - 千葉地検検事正
1949年（昭和24年）9月 - 最高検検事
1950年（昭和25年）
5月 - 法務府検察研究所長
7月 - 法務府刑政長官
1951年（昭和26年）6月 - 国際刑法監獄会議日本代表として欧米へ出張
1952年（昭和27年）
3月 - 法務府検察研究所長
7月 - 最高検公安部長
1953年（昭和28年）9月 - 札幌高検検事長
1957年（昭和32年）12月 - 福岡高検検事長
1960年（昭和35年）4月 - 大阪高検検事長
1962年（昭和37年）8月12日-1970年（昭和45年）10月24日 - 最高裁判事

顕彰

勲一等瑞宝章 - 1970年（昭和45年）

著書

共著
『刑法総論』（定塚道雄共著 恒春閣書房、1944年4月）

参考文献

野村二郎『最高裁全裁判官：人と判決』三省堂、1986年。
野村二郎『日本の裁判史を読む事典』自由国民社、2004年。
風間道太郎『尾崎秀実伝』 85巻（新装補訂版）、法政大学出版局、東京〈教養選書〉、1995年2月28日。
法曹会『司法大観』法曹会、1967年7月1日。

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