菊の前

菊の前の歴史とその影響

菊の前（きくのまえ）は、山田城の城主である山田筑後守辰業の正室であり、その生年については記録が残っていないため不明である。また、彼女の出自や生前の業績に関しても多くの謎が残ったままである。菊の前は、歴史の表舞台には現れずその背後にいる存在として知られているが、彼女の運命は戦国の混乱の中で悲劇的なものとなった。

天正13年（1585年）3月25日、宇都宮氏と那須氏の間で激しい戦闘が繰り広げられた薄葉ヶ原の戦いの際、彼女の夫である山田辰業はこの戦闘で討ち死にしてしまった。この戦いの結果、山田城も那須勢によって攻撃を受け陥落することになる。

菊の前の勇敢な逃避

城が攻め落とされる際、菊の前は家老である山田新左衛門と共に城を脱出した。しかし、彼女を守ろうとした新左衛門は戦いで奮闘し、残念ながら討ち死にしてしまう。菊の前はその後、花見どやとされる山の方へ逃げるが、追っ手の存在を知り、追い詰められてしまった。

追いつめられた菊の前は、彼女に従ってきた11人の侍女たちと共に、太鼓岩という崖から箒川に身を投げ自らの命を絶つという選択をする。この自害は、故郷を守るため、その命をかけた彼女たちの悲壮な最後であった。地元の山田環往来記には、彼女たちの運命について記述され、現在でもその場所は「十二御前」と呼ばれている。

菊の前の供養とその後

戦後、菊の前と侍女たちの供養は、戦の翌日から山の麓に位置する関根村（現・栃木県矢板市大字山田小字関根）の住民たちによって行われていた。特に、事故が起きた夜が「十二夜」とされ、この日に「十二夜御前」と名付けられた供養が行われてきた。正月の12日には藁宝殿を作り、米や供物を捧げる習慣があった。

しかし、時が経つにつれて関根村は衰退し、江戸時代後期にはわずか2軒の民家しか存在しなくなり、現在では村そのものが消滅した。そのため、菊の前や侍女たちの供養が行われることはなくなり、地域の人々もその悲劇について多くは知らない。

菊の前の墓所

山田城の近くには、かつて与楽山千手院円満寺という名の立派な寺が存在していたが、現在は廃寺となっている。現在、この寺跡地は墓地として使用されており、そこには寺の住職のものと考えられる卵塔や、山田一族に関連する五輪塔がいくつか残されている。しかし、これらの中に菊の前の墓が含まれているかどうかは定かではない。

菊の前の存在とその悲劇的な物語は、戦国時代の顕著な女性たちの一人としての記憶を持っていますが、その詳細は時代の流れにより徐々に薄れているのが現状です。

もう一度検索