菊池五山

菊池五山：江戸後期の詩壇を彩った巨匠

菊池五山(きくちござん、1769-1849)は、江戸時代後期に活躍した著名な漢詩人です。名は桐孫(まさひこ)、字は無絃、通称を左太夫と称し、五山や娯庵といった号も用いました。高松藩儒官の家系に生まれ、幼少期から詩作に親しみます。10歳の頃には父・菊池室山から詩を学び、才能を開花させていきました。

若き日は昌平黌の柴野栗山に師事し、詩人の集まりである江湖社にも参加。才能は早くから開花し、「続吉原詞」や「深川竹枝」などの作品で名を広めました。その後、事件に関わって江戸を離れ、関西地方に滞在する時期もありましたが、文化年間の中頃には江戸に戻り、精力的に創作活動を行います。

五山の代表作として知られるのが、『五山堂詩話』です。文政年間にかけて刊行されたこの作品は、漢詩批評をまとめたもので、関東や中部地方の詩壇に大きな影響を与えました。『五山堂詩話』に掲載されることが、詩人としてのステータス向上に繋がるという風潮すら生まれ、五山の批評の権威は、フランスの文壇におけるサント＝ブーヴに例えられるほどでした。ただし、その影響力ゆえに、礼金の額によって批評の評価を変えるとの批判も受けたようです。

五山の詩風は、初期の繊細優美な作風から、中年期以降は平明で華麗、重厚なものへと変化を遂げました。しかし、一貫して江戸の市井生活を描いた風物詩に優れた作品が多く、これが彼の大きな特徴となっています。

五山の貢献は詩作だけにとどまりません。彼は漢詩を批評するサロン、いわば当時の知識人や文人たちの情報伝達を行うジャーナリズムのような役割を果たしました。『五山堂詩話』は、単なる批評集ではなく、時代の知的な交流を反映した重要な記録として位置付けられます。

晩年は本郷一丁目近辺で、門弟に詩を教えながら生活を営み、数々の優れた作品を残しました。その死後も、彼の詩や詩論は、後世の詩人たちへ多大な影響を与え続けました。没後、練馬区広徳寺に墓が建てられています。

彼の作品や生涯を知ることで、江戸時代の文化、特に詩壇の状況を深く理解することができるでしょう。菊池五山の存在は、江戸後期の文壇における、重要な一頁を刻んでいると言えるでしょう。菊池寛は、五山の傍系の子孫であるとされています。

参考文献

富士川英郎『江戸後期の詩人たち』（1966年、麦書房）、平凡社東洋文庫で再刊
中村真一郎『頼山陽とその時代』（1971年、中央公論社）、中公文庫・ちくま学芸文庫で再刊

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