菜飯田楽

菜飯田楽とは

菜飯田楽（なめしでんがく）は、炊き上げた米飯に乾燥させた大根の葉などを混ぜ込んだ菜飯と、味噌田楽を組み合わせた日本の郷土料理です。菜飯に用いる葉野菜は地域によって異なり、大根の葉のほか、カブやミズナなども使われます。この料理は、特に東海道の宿場町を中心に発展し、旅人たちの間で人気を博しました。現在でも、愛知県を中心とした東海地方の一部地域で、その伝統が受け継がれています。

歴史

菜飯田楽の歴史は古く、江戸時代の文献にもその名を見ることができます。尾形乾山の道中記には、吉田宿の隣にある御油宿（現在の愛知県豊川市）で、菜飯田楽を名物とする店があったと記述されています。このことから、菜飯田楽は江戸時代にはすでに地域の名物として認知されていたと考えられます。

食文化研究家の吉川誠次は、文政年間（1818年～1830年）創業の「菜飯田楽 きく宗」以前から、渥美半島産の大根や三河産の八丁味噌を用いた菜飯田楽がこの地域の名物だったと推測しています。「菜飯田楽 きく宗」は、東海地方でも屈指の老舗として知られ、菜飯に大根のみを用いる伝統的な製法を守り続けています。

豊橋の菜飯田楽が広く知られるようになったのは、明治時代以降とする説もあります。しかし、それ以前から地域の人々に親しまれていたことは、多くの文献や証言から明らかです。

菜飯の調理法

東三河地方の菜飯は、大根の葉を用いることが多いですが、カブやミズナなども使われます。調理法は、まず塩茹でした葉を水にさらし、絞ってから細かく刻みます。次に、少量の塩を振って鍋で乾煎りし、炊きあがったご飯に混ぜ込んで菜飯が完成します。

東三河以外の菜飯田楽

近江国目川（現在の滋賀県栗東市目川）の菜飯田楽も、東海道を行く旅人に人気がありました。寛保年間（1741年～1743年）頃には、この目川の菜飯田楽を扱う店が江戸で流行し、街道沿いに広まっていきました。しかし、他の地域では次第に衰退し、東海地方の一部でだけその伝統が残りました。

遠江国の菊川宿（現在の静岡県島田市）も、かつては菜飯を名物としていました。江戸時代中期には既に菜飯が作られていたと考えられています。2000年（平成12年）時点では、「よし善」という店だけが菜飯を提供していましたが、1993年（平成5年）に菜飯田楽をメニューに加えました。

西三河地方の岡崎市では、菜飯田楽を提供する飲食店が数店存在します。岡崎公園内にある明治期創業の「八千代本店」は、創業当初から菜飯田楽を提供しており、現在でもカクキューの八丁味噌や三河地方産の大根を使用しています。

尾張地方の犬山市では、明治時代から続く「でんがく 松野屋」が、創業当初から田楽とセットで菜飯を提供しています。「でんがく 松野屋」のメニューは、田楽4種と菜飯のみというシンプルな構成です。

名古屋市を中心に複数の店舗を展開する「鈴の屋」は、菜飯田楽の名店として知られています。名古屋市出身の女優である戸田恵子さんも、「鈴の屋」を「とびきりお気に入りの店のひとつ」と評しています。

菜飯田楽は、地域ごとの食材や調理法によって、多様な味わいを楽しむことができる日本の食文化の象徴とも言えるでしょう。その歴史と伝統を、ぜひ味わってみてください。

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