華麗なる円舞曲 (ショパン)

ショパン：華麗なる円舞曲集 作品34

フレデリック・ショパンが作曲したピアノのための独奏曲集、『華麗なる円舞曲』（フランス語では Trois grandes valses brillantes）作品34は、全3曲からなるワルツのコレクションです。時には単に『華麗なるワルツ』と表記されることもあります。

概要

この作品集は、ショパンのキャリアにおける比較的初期にあたる時期に生み出されました。その音楽は非常に華やかで、演奏者にとっても聴衆にとっても聴き応えのある効果をもたらします。かつては第1曲と第2曲が1831年、第3曲が1838年の作曲と考えられていましたが、現在では第1曲が1835年、そして第2曲と第3曲は1838年の作曲と見なされています。

作品は1838年12月に出版され、ドイツのライプツィヒにあるブライトコプフ・ウント・ヘルテル社と、ほぼ同時期にフランスのパリにあるシュルザンジェ社から世に出されました。

先行する作品である作品18の『華麗なる大円舞曲』が、より実用的な舞踏用途を想定して書かれた性格を持つのに対し、この作品34に含まれる3曲は、次第に「舞踏詩」と呼ぶにふさわしい、より芸術的な性格を帯び始めています。しかし、特に第1曲にはまだ舞踏のための要素が残されており、同時代の著名な作曲家ロベルト・シューマンは、この作品を評して「舞踏会場で即興的に奏でられたかのようだ」という印象を述べています。

ちなみに、日本ではこの作品集は『華麗なる円舞曲』として広く知られており、作品18の『華麗なる大円舞曲』とは明確に区別して扱われるのが一般的です。一方、海外では作品18と作品34の両方を「Grande Valse brillante」と表記することも少なくなく、区別があいまいな場合も見られます。

構成

作品34を構成する3つのワルツは、それぞれ異なる人物に献呈されています。以下に各曲の詳細を記します（括弧内の番号はショパンのワルツ全体における通し番号です）。

第1曲（第2番）変イ長調 作品34-1

「アレグロ・ヴィヴァーチェ」の速度指示を持ち、変イ長調で書かれています。トゥン＝ホーヘンシュタイン嬢に捧げられました。この曲は、1835年9月、ショパンがボヘミア地方（現在のチェコ）の温泉地カールスバート（カルロヴィ・ヴァリ）で療養していた両親を見送る旅の途中に、トゥン＝ホーヘンシュタイン家へ立ち寄った際に作曲され、同月15日には完成されたとされています。

音楽は非常に輝かしく、内容も充実しており、文字通り「華麗なる」の名にふさわしいワルツです。比較的長い16小節の序奏を持ち（前作の作品18は4小節）、属七の和音に始まり、両手のユニゾンを経てワルツ本体の第1部（変イ長調）へと移行します。第1部では速い音階の動きが特徴的で、華やかさを際立たせています。続く各部は多様な転調を伴い、第2部は変ニ長調から変イ長調へ、第3部は変ニ長調から変ホ長調へ、第4部は変ト長調から変ニ長調へ、第5部は再び変イ長調へ、そして第6部は変ニ長調から変イ長調へと移り変わります。この多彩な調の変化が楽曲全体の華麗さを一層高めています。最後の第7部は、61小節にも及ぶ規模の大きなコーダで締めくくられます。

第2曲（第3番）イ短調 作品34-2

「レント」という遅いテンポで、イ短調で書かれています。形式はロンド形式に近い構造を持っています。ディヴリー男爵夫人に献呈されました。

作品集の他の2曲が持つ華やかさとは対照的に、この曲は憂愁や哀愁に満ちた性格を持っています。そのため、「華麗なる」というタイトルがこのゆったりとした雰囲気の楽曲に適切かどうか、しばしば議論の対象となります。出版社やCDによっては、タイトルに「華麗なる」を付けず、単に「ワルツ」として扱われることも少なくありません。

音楽は、低音部が空虚な5度音程を奏でる上に、3度の主和音が主題を歌い上げるように始まります。曲中では2度、平行長調であるハ長調へ転調します。コーダでは、左手がホ長調のアルペッジョを演奏した後、冒頭の憂鬱な主題が静かに回想され、曲を閉じます。ショパン自身が数ある自作ワルツの中でも特にお気に入りだった作品であると言われています。

第3曲（第4番）ヘ長調 作品34-3

「ヴィヴァーチェ」という生き生きとした速いテンポで、ヘ長調で書かれています。ショパンの弟子の一人であったディクール嬢に献呈されました。

この曲はしばしば『猫のワルツ』という愛称で親しまれています。これは、楽曲の81小節目あたりから現れる、装飾音符を伴った上昇する旋律が、まるで猫が突然鍵盤に飛び乗って駆け回る様子を連想させることから名付けられました。

楽曲は、 끊임없이 움직이는 듯한 무궁동풍의 성격을 가지며, 반음계적인 요소も取り入れています。序奏と4つの部分で構成されています。属七の和音を繰り返す序奏から始まり、第1部はヘ長調で進行します。続く第2部はロ長調へと転調し、第3部ではロ長調から再びヘ長調へと戻ります。第4部で冒頭の旋律が回帰した後、最後に華やかでありながらもどこか騒がしい雰囲気を持つ29小節の長いコーダへと突入し、力強く楽曲を締めくくります。

この曲のエピソードとして特筆されるのが、1985年の第11回ショパン国際ピアノコンクールにおけるスタニスラフ・ブーニンによる演奏です。彼の驚異的な高速演奏は非常に有名で、通常は楽章間での拍手が控えられているコンクール会場において、演奏終了と同時に聴衆が感動のあまり拍手を始めてしまったほどでした。この演奏の様子が日本のNHK（日本放送協会）の特集番組で放送されたことをきっかけに、日本でもこの曲、そしてブーニンへの注目が一気に高まりました。

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