葉煙草一厘事件

葉煙草一厘事件について

概要

葉煙草一厘事件（はたばこいちりんじけん）は、日本の歴史において重要な法律判例となった事件です。この事件は、農家が栽培した葉煙草を自らのために消費した行為が、葉煙草専売法に違反したとされるものです。事件は、一般には一厘事件または一厘煙草事件とも呼ばれています。

この事件が起きたのは、1909年（明治42年）のことです。栃木県那須郡に住む63歳の農民が、育てた葉煙草を乾燥させ、その中のわずか1匁（約3.75グラム）のうちの7分（約2グラム）を手で揉んで喫煙しました。この行為に対し、検事は何と、農民が葉煙草を大蔵省専売局に納入すべき義務を怠ったとして、葉煙草専売法の不納付違反に基づいて起訴しました。この時の被害額は、わずか一厘、つまり1円の千分の1の金額でした。

裁判の経過

最初の裁判、宇都宮地方裁判所では、農民の行為は違法ではあるものの微罪だとして無罪判決が下されました。しかし、検事がこの判決に不服を唱え、東京控訴院（現在の東京高等裁判所）に控訴を行ったのです。1910年6月20日、東京控訴院の中嶋正司判事は、農民に対して有罪を認定し、罰金10円を科す判決を言い渡しました。この罰金は被害額のなんと1万倍という、極端に厳しいものでした。そのため、この案件は「万倍事件」とも称されるようになりました。

この判決に対して、法律関係者の間からは、過剰な罰則に対する批判が湧き上がりました。それを受けて、法律家たちは上告審での弁護を引き受けることとなりました。そして最終審となる大審院（現在の最高裁判所）は、1910年10月11日に二審判決を覆し、無罪の判決を下しました。

判決の理由

大審院の判決では、「人類非行は零細なるものに関しては、特に悪性を認めるべきものではなく、その人生に及ぼす害悪は極めて僅少なものとする」という見解が示されました。つまり、違法な行為であっても、実害がほとんど存在せず、微細な行為であればそれを罪として問うことはできないというものでした。このことで、葉煙草一厘事件は法律と罰則の在り方に対する一つの重要な考察を提供することになりました。

注釈

この事件は、微罪に対する法的扱いや専売制に関する重要な前例を示したものとして、今でも語り継がれています。また、関連する文献としては、事件犯罪研究会編の『明治・大正・昭和・平成事件・犯罪大事典』などが挙げられます。

参考文献

• - 事件犯罪研究会 編『明治・大正・昭和・平成　事件・犯罪大事典』東京法経学院出版、2002年。

関連項目

• - 微罪
• - たばこ
• - 専売制
• - 宮本英脩

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