董光清

董光清（とうこうせい）は、1917年 4月1日に生を受け、2007年 5月12日にこの世を去ったフランシスコ会士です。洗礼名はベルナルディヌス（Bernardinus）でした。彼は、現代中国のカトリック教会史において特筆すべき人物であり、特にバチカンの承認を経ずに司教を選出し、聖別を行う、いわゆる「自選自聖」という形で最初に司教となったことで知られています。

生涯と初期の道のり

董光清は、敬虔なカトリック信徒の家庭に生まれ育ちました。故郷は現在の湖北省孝感市にあたります。幼い頃から信仰に篤く、聖職者の道を志しました。1928年に漢陽の小神学校に入学し、その後1934年にフランシスコ会の修練院に進みました。漢口のフランシスコ会神学校で哲学と神学を修め、1942年2月、漢口の聖ヨゼフカテドラルにおいて司祭に叙階されました。叙階後は、黄陂などで布教活動に励みましたが、体調不良のため療養期間を経て、1946年からは漢口の上智中学（現・武漢市第六中学）で職員、総務主任、副校長として教育分野に携わりました。

激動の中での司教職務と「自選自聖」

1950年代、中国のカトリック教会は大きな変化を迫られていました。1952年には漢口教区の司教であったイタリア人のジュゼッペ・ロサ氏が国外に追放され、その後を引き継いだ中国人の司教代行者たちも、当局によって拘束されるという事態が発生します。このような状況下、1953年7月に董光清は漢口聖ヨゼフカテドラルの主任司祭に就任し、さらに1955年12月には漢口教区全体の司教代行を務めることになりました。

政治状況が教会の運営に深く関与する中で、1958年 3月18日から19日にかけて、漢口教区の聖職者たちは、中国共産党武漢市委員会の指導の下、当時41歳であった董光清を漢口教区の次期大司教に選出しました。この選出に至る過程では、当時の政府関係者の証言によれば、董光清自身が当局からの強い圧力に直面し、深く悩んでいたと伝えられています。

選出後、教会関係者たちはローマ教皇庁に対し、司教が不在である現状と、教区の運営および信徒の霊的なケアのために新たな司教が必要であるとし、董光清を選出したことを報告する電報を送りました。しかし、教皇庁福音宣教省からの返信は、この一方的な選出・聖別は教会法に明白に違反する行為であり、もし聖別が実行されれば、本人の意思にかかわらず破門の対象となることを警告するものでした。

初の「自選自聖」司教誕生と破門

教皇庁からの強い警告があったにもかかわらず、武漢市では1958年 4月9日、大規模な集会が開催され、教皇庁の統制から離れ、教会を独立自主的に運営していく方針が改めて表明されました。同時に、漢口・武昌両教区が正当に選出した司教をバチカンが不当に否認したことへの抗議や、教皇庁が宗教ではなく「帝国主義的侵略政策」に奉仕しているといった批判を含む文書が発表されました。そして、同年4月13日、漢口聖ヨゼフカテドラルにて、カトリック蒲圻教区の李道南司教の手によって、董光清の司教聖別式が執り行われました。ここに、董光清は、中国カトリック教会において、バチカンの承認を得ない「自選自聖」という形で最初に誕生した司教となったのです。これに対し、ローマ教皇庁は直ちにこの聖別を非合法であると宣言し、董光清に対する破門を公式に宣告しました。

その後、董光清は中国天主教愛国会（政府公認の教会組織）において重要な役割を担い、同会の副主席や中国天主教主教団の副団長、湖北省天主教愛国会の主席などを歴任しました。こうした活動は、中国の政治体制下におけるカトリック教会のあり方を巡る複雑な問題と密接に関わっていました。興味深いことに、1980年代末には、時の教皇ヨハネ・パウロ2世から認可を得たとされていますが、これが彼自身の「自選自聖」による司教としての地位に対する公式な追認であったのか、あるいは別の形式での関係改善を示すものであったのかは、教会史家の間でも議論される点です。

1990年代には、政府非公認の「地下教会」の司教であった劉和徳氏とも協力し、武漢地区でのカトリック信仰の普及に努めました。また、中南地域を対象とする中南神哲学院を武昌に設立し、自ら院長を務めるなど、次世代の聖職者の育成にも力を注ぎました。

晩年と逝去

晩年にも、彼は再びバチカンの許可を得ない司教聖別に関与しました。2006年 4月30日、彼は馬英林神父を昆明教区司教に聖別しましたが、この行為に対し、教皇ベネディクト16世は馬英林司教を含む関係者を破門しました。

董光清は、2007年 5月12日、肺癌のため武漢市にて90歳で永眠しました。彼の葬儀は5月18日に聖ヨゼフカテドラルで営まれ、多くの信徒が参列しました。また、武昌の殯儀館で行われた追悼ミサには、当時の湖北省の幹部らも出席するなど、彼の存在が中国社会において有していた公的な側面がうかがわれました。遺体は火葬され、遺骨は柏泉に埋葬されました。

董光清の生涯は、現代中国におけるカトリック教会の歴史、特に国家と教会、バチカンと中国国内教会との間の複雑かつ困難な関係性の中で、一人の聖職者がどのように生き、振る舞ったのかを示す重要な事例と言えるでしょう。

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