蕭正徳

蕭正徳：野望と破滅の生涯

蕭正徳（しょう せいとく、生年不詳 - 549年）は、南朝梁の皇族であり、臨川靖恵王蕭宏の三男として生まれました。字は公和と称しました。彼は、武帝蕭衍の甥にあたり、幼少の頃には蕭衍に男子がいなかったため養子となり、後継者として期待されていました。しかし、中興元年（501年）に蕭衍に長男の昭明太子蕭統が誕生し、天監元年（502年）に蕭統が立太子されると、蕭正徳は後継者の地位を失い、西豊県侯に封じられました。

この出来事が蕭正徳の心に深い恨みを植え付け、謀反を企てるようになりました。若い頃から礼節をわきまえず、偏狭で凶暴な性格であった彼は、建康で殺人や強盗を繰り返しました。臨賀王に封じられた後もその乱行は収まることなく、自らの妹である長楽公主と私通し、焼き殺すという残虐な行為に及びました。長男の蕭見理も同様に乱行を重ねたため、人々は「市で五匹の虎に会うよりも、臨賀王父子には会いたくない」とまで言ったと伝えられています。

蕭正徳は、諸官を歴任した後、呉郡太守となりました。普通3年（522年）には北魏に亡命しますが、北魏での待遇に不満を抱き、普通4年（523年）に梁へ逃げ帰りました。武帝は彼を罪に問わず、西豊侯の爵位を戻し、征虜将軍の号を与えました。その後、普通6年（525年）に軽車将軍となり、従弟の豫章王蕭綜に従って北伐に参加しましたが、軍を捨てて逃走したため、官爵を剥奪され、臨海郡へ移されることになりました。大通元年（527年）に爵位は回復しましたが、中大通4年（532年）に臨賀郡王に封じられ、中大通5年（533年）には中護軍、後に丹陽尹を歴任しました。

太清2年（548年）、侯景が反乱を計画すると、蕭正徳が不満を抱いていることを知った侯景は、彼を仲間に引き入れました。10月、侯景の軍が歴陽まで南進してきたため、武帝は蕭正徳に平北将軍の号を与え、京師の諸軍を都督させ、丹陽郡に駐屯させました。侯景が長江北岸の横江に到達すると、蕭正徳は荻を運ぶと称して舟を動員し、侯景とその兵を南岸の采石に渡らせました。この時、朝廷は蕭正徳が反乱に加担しているとは知らず、彼に朱雀航を守らせました。しかし、侯景がやってくると、蕭正徳は軍を率いて侯景に合流し、反乱軍を宣陽門から都に引き入れました。

11月、蕭正徳は侯景によって皇帝に擁立され、儀賢堂で即位しました。元号を太清から正平に改め、蕭見理を太子に、娘を侯景の妻としました。侯景を丞相に任命しましたが、正平2年（549年）3月に建康が陥落すると、蕭正徳は侯景によって廃位され、元号は太清に戻されました。彼は侍中・大司馬に降格されました。その後、蕭正徳は武帝と面会しましたが、涙する彼に対し武帝は「泣いたところで今更どうにかなるのか」と突き放しました。侯景に協力したことを深く後悔した蕭正徳は、従弟の鄱陽王蕭範に密書を送り、兵を動かそうとしましたが、6月に密書を遮った侯景によって永福省で殺害されました。

蕭正徳は、その生涯を通して、皇位への執着と自己中心的な振る舞いによって、多くの悲劇を引き起こしました。彼の行動は、当時の社会秩序を大きく揺るがし、その後の歴史に大きな影響を与えました。

伝記資料

『梁書』巻55 列伝第49
『魏書』巻59 列伝第47
『南史』巻51 列伝第41
『北史』巻29 列伝第17

もう一度検索