薔薇の香り

『薔薇の香り』 - フィービ・スノウ

『薔薇の香り』（原題：Never Letting Go）は、アメリカのシンガーソングライター、フィービ・スノウが1977年にリリースした通算4枚目のスタジオ・アルバムです。

アルバムの概要

前作までの成功を経て発表された本作は、フィービ・スノウの音楽的な探求心を示す一方で、評価が分かれる作品として知られています。ジャズやポップスの要素を巧みに融合させてきた彼女のスタイルは本作でも健在ですが、当時の音楽シーンの変化や自身のキャリアの転換期が影響していると言われます。

収録曲

アルバムには全9曲が収録されています。自身のペンによるオリジナル楽曲を中心に、著名なアーティストのカヴァーも含まれています。

1. ラヴ・メイクス・ア・ウーマン (Love Makes a Woman) - カール・デイヴィス, ユージーン・レコード, ウィリアム・サンダース, ジェラルド・シムス作
2. マジェスティ・オブ・ライフ (Majesty of Life)
3. ライド・ジ・エレベーター (Ride the Elevator)
4. 何かがうまく (Something So Right) - ポール・サイモン作
5. ネヴァー・レッティング・ゴー (Never Letting Go) - スティーヴン・ビショップ作
6. ウィ・アー・チルドレン (We're Children)
7. ミドル・オブ・ザ・ナイト (The Middle of the Night)
8. エレクトラ (Electra)
9. ガーンデン・オブ・ジョイ・ブルース (Garden of Joy Blues) - Clifford Hayes作

ポール・サイモン作の「Something So Right」や、スティーヴン・ビショップ作のタイトル曲「Never Letting Go」といった、他のアーティストによる楽曲をフィービ独自の解釈で披露しています。

評論家による評価

本作に対する評論家の意見は、必ずしも一様ではありませんでした。例えば、オールミュージックの回顧的レビューにおいて、評論家のウィリアム・ルールマンは、フィービ・スノウの商業的な成功と芸術的な達成の両方がこの時期に下降傾向にあったと分析しています。彼は、参加したスタジオミュージシャンの質の高さや、プロデューサーであるフィル・ラモーンのポップ＝ジャズ的な洗練されたプロデュース手法、そしてフィービ自身の卓越した歌唱力は認めつつも、アルバム全体の音楽的な方向性には迷いが見られ、かつての輝きや刺激に欠けると評しました。

また、評論家のロバート・クリストガウは、フィービがジャズシンガーとしての自信を深めている兆候を認めつつも、彼女自身のオリジナル曲が、アルバムに収められた著名なカヴァー曲に比べて印象が薄いと指摘しました。さらに、楽曲のテンポ設定が単調に感じられたり、同じフレーズの繰り返しが多すぎるといった構造的な側面にも触れ、手厳しい評価を下しています。

これらの評価から、本作はフィービ・スノウのキャリアにおける過渡期に位置づけられる作品であり、彼女の持つ才能と、それをどのように音楽として表現していくかという模索が見られたアルバムであったと言えるでしょう。

参加ミュージシャンと制作

本作の大きな特徴の一つは、参加ミュージシャンの顔ぶれの豪華さです。プロデューサーには、当時多くのヒット作を手掛けていたフィル・ラモーンが起用されました。演奏陣には、ケニー・アスチャー（ピアノ）、リチャード・ティー（エレクトリック・ピアノ）、ボブ・ジェームス（ピアノ）、ヒュー・マクラッケン（ギター）、スティーヴ・カーン（ギター）、ウィル・リー（ベース）、トニー・レヴィン（ベース）、スティーヴ・ガッド（ドラムス）、クリス・パーカー（ドラムス）といった、当時の音楽シーンを代表する一流のスタジオ・ミュージシャンが多数参加しています。管楽器奏者もマイケル・ブレッカー（テナー・サックス）、ヒューバート・ロウズ（フルート）、フィル・ウッズ（アルト・サックス）など錚々たるメンバーが名を連ねています。さらに、バッキング・ボーカルにはパティ・オースティンらが参加し、収録曲「We're Children」ではケニー・ロギンズがボーカルでゲスト参加しています。

これらの優れたミュージシャンたちの演奏は、本作に高い音楽的クオリティを与えています。フィル・ラモーンによる洗練されたプロデュースとエンジニアリングも、作品のサウンドを支える重要な要素となっています。

デザインはジーン・グリーフとポーラ・シェアが手掛けました。

『薔薇の香り』は、批評家の評価は分かれたものの、フィービ・スノウの類まれな歌唱力と、当時のトップミュージシャンたちの演奏が融合した、彼女のディスコグラフィーにおいて見逃せない作品の一つです。

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