薛祥

薛祥（せつ しょう）

薛祥（生年不詳 - 1381年）は、元末から明初の激動期を生きた官僚です。字を彦祥といい、無為州無為県（現在の安徽省一帯）を本貫とします。その生涯は、動乱の中でいかに民を思い、正義を貫いたかを示すものでした。

生涯

薛祥は、元末の混乱期に兪通海に従い、後に明の太祖となる朱元璋に帰順しました。長江を渡河した際には水寨管軍鎮撫に任じられ、その後の各地での戦役で武功を重ねました。1368年、洪武元年には河南での水運監督を命じられ、夜半に蔡河を通過する際、反乱軍に遭遇しますが、薛祥は冷静に彼らを説得し、解散させるという機転を見せました。この功績により、洪武帝（朱元璋）に賞賛され、京畿都漕運使に任じられ、淮安を管轄するようになりました。

淮安では、揚州から済州にかけての広大な範囲で運河の浚渫と堤防の築造に尽力しました。また、功績のあった者を朝廷に推薦し、官位を授与させました。元の首都、大都が陥落し、官民が南へ移動する際には、薛祥は淮安で多くの人々を救済しました。さらに、山陽や海州で発生した民衆反乱の後処理では、駙馬都尉の黄琛が誤って多数の人々を逮捕しましたが、薛祥が徹底的な調査を行い、無実の人々を釈放しました。薛祥の淮安での8年間の統治は、彼が南京に帰還する際に、官民が香を焚いて再任を願い、その肖像を祀るほど、民衆から慕われていました。

1375年（洪武8年）には、工部尚書に抜擢されました。中都鳳陽府での宮殿造営中、洪武帝の御座の屋上に武装した兵士の人形が仕込まれていることが発覚しました。太師の李善長は、工匠たちが呪術を用いていたと報告し、洪武帝は工匠全員を処刑しようとしました。しかし薛祥は、交代で不在だった工匠や鉄石を扱う工匠たちは無関係であると主張し、多くの命を救いました。また、宮殿造営に関わった工匠の報告に誤りがあった際には、洪武帝の怒りを買い、関係者が処刑されそうになりましたが、薛祥は「事実に即さない処刑は不当である」と皇帝に進言し、腐刑（去勢刑）を提案しました。その後、薛祥は「腐刑は人の尊厳を傷つける」として、杖罰を用いるよう進言し、洪武帝もこれを認めました。

1376年（洪武9年）には、天下の行省が承宣布政使司に改められた際、要地である北平に派遣されました。薛祥は3年間の統治で第一の成績を収めましたが、胡惟庸に妬まれ、民衆を苦しめたという讒言によって嘉興府知府に左遷されました。1380年（洪武13年）に胡惟庸が処刑されると、薛祥は再び工部尚書に任命されました。洪武帝から「讒臣があなたを陥れたのに何も言わないのか」と問われると、薛祥は「私は何も知りません」と答えました。

しかし、1381年（洪武14年）10月、薛祥は罪に問われ杖罰を受け死亡しました。彼の4人の息子は瓊州に流刑となり、瓊山県に籍を移しました。薛祥の生涯は、その誠実さと民衆を思う心、そして不当な権力に屈しない強い意志を示しています。

人物像

薛祥は、常に冷静沈着で、民衆の視点に立って物事を判断する人物でした。その功績は、単に武力や政治力によるものではなく、人としての誠実さや正義感に裏打ちされたものでした。民衆からの信頼も厚く、その死は多くの人々に惜しまれました。

評価

薛祥は、明初の動乱期において、その能力と誠実さで数々の功績を挙げました。しかし、讒言によって悲劇的な最期を迎えたことは、歴史の大きな教訓となっています。彼の生涯は、公正さや正義を追求することの大切さを現代に伝えています。

参考文献

* 『明史』巻138 列伝第26

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