薬丸兼福

薬丸兼福（やくまる かねとみ）は、江戸時代前期に活躍した薩摩藩士です。父である薬丸兼陳から示現流を学び、その腕前は東郷重次の相打ちに匹敵すると自称するほどでした。

兼福は武術だけでなく、文才にも優れており、藩の役人として細工奉行という役職を任されていました。さらに、その能力を認められ、兵具奉行の就任を打診されましたが、兼福は自身の知行高が足りないという理由でこの役職を断りました。

しかし、この謙虚な姿勢が、後年、薬丸家の家格を決定する際に、家格小番になることができない原因の一つとなります。謙遜は美徳ではありますが、時には損をしてしまうという教訓にもなります。

兼福は男子に恵まれなかったため、生涯で何度か養子を迎えました。最初の養子は、甥である黒葛原俊宗の次男、周助忠長でした。彼は薬丸半介武兼と名前を改めましたが、黒葛原家の長男が亡くなったため、黒葛原家に戻ることになりました。この人物は、後に示現流の達人として知られる黒葛原可山です。

次に迎えた養子は、薬丸半左衛門の嫡子である次兵衛でしたが、兼福よりも先に亡くなってしまいました。最終的に、甥の黒葛原俊宗の三男である周次郎を養子に迎え、薬丸兼慶と名乗らせました。

兼福の墓所は、当初は曹洞宗医王山薬王寺にありましたが、現在は南林寺由緒墓に移され、薩摩藩の日置流弓術初代師範であった東郷重尚と児玉利常の墓の間に位置しています。このことは、兼福が薩摩藩において重要な人物であったことを示唆しています。

兼福の生涯は、武術に秀で、文才にも長けた人物でありながら、その謙虚さが時に損をしてしまうという、人間味あふれる一面も示しています。また、養子縁組を繰り返したことからも、家を継承していくことの難しさが伺えます。

参考文献

『鹿児島県史料集』34 示現流関係資料、鹿児島県史料刊行会、平成6年
『鹿児島士人名抄録』高城書房
鹿児島市史III
『鹿児島県史料集』　旧記雑録拾遺　諸氏系図一

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