藤原基俊

平安時代後期の多才な貴族：藤原基俊

藤原基俊は、平安時代後期を代表する貴族、歌人、そして書家でした。藤原北家御門流の出身で、右大臣・藤原俊家の四男にあたります。

華麗なる経歴と意外な晩年

永長元年（1096年）には既に前左衛門佐の地位にありましたが、その後、官位は昇進せず、従五位上・左衛門佐のままでした。これは、学識を誇り、公務には怠慢であったためだと伝えられています。藤原道長の曾孫という高貴な家系でありながら、官界では不遇な人生を送ったと言えるでしょう。保延4年（1138年）、出家し、覚舜と名乗ります。そして永治2年（1142年）にこの世を去りました。

歌壇を彩った名歌人

歌人としては、歌合で作者や判者を務め、源俊頼と共に院政期歌壇を牽引する存在でした。俊頼が革新的な歌風を特徴とした一方、基俊は古風な歌を重んじたという対照的な二人の活躍は、当時の歌壇の多様性を示しています。晩年には、後の歌聖・藤原俊成を弟子に迎えるなど、後進の育成にも尽力しました。『金葉和歌集』をはじめとする勅撰和歌集に百首以上が採録され、『基俊集』という家集も残されています。

その代表作として有名なのは、小倉百人一首にも選ばれている次の歌です。

ちぎりおきし させもが露を いのちにて あはれ今年の 秋もいぬめり

この歌は、約束した露が降り注ぐように、命を賭けても恋の思いを果たしたいという切ない想いを表現しています。

また、漢詩文にも精通し、『新撰朗詠集』を編纂したという記録も残っています。

書家としての卓越した技量

基俊は書家としても高い評価を受けており、現存する書跡は、平安時代の書史研究において貴重な資料となっています。特に有名なのは「多賀切」です。これは和漢朗詠集の写本の断簡で、現在70葉ほどが現存しています。下巻末の部分には、基俊自身の自筆による奥書があり、そこに記された「永久四年（1116年）孟冬二日、扶老眼点了、愚叟基俊」という記述は、書跡の年代と作者を明確に示すもので、平安時代の書跡の中でも極めて珍しいものです。他に「山名切新撰朗詠集」も知られています。

家族と子孫

基俊の父は藤原俊家、母は高階順業の娘です。妻は藤原定成の娘で、複数の男子がいました。その中には、藤原基明、藤原能仲、皇覚、猷算、光覚、実顕などがいます。基俊の子孫は、その後も貴族社会において重要な役割を果たしたと考えられています。

まとめ

藤原基俊は、歌人、書家として優れた才能を発揮しただけでなく、高貴な家系に生まれながらも、官界では不遇な道を歩んだ人物でした。しかし、彼の残した歌や書跡は、平安時代の文化を後世に伝える貴重な遺産であり、今も人々の心を惹きつけています。彼の生涯は、平安時代の貴族社会の栄華と陰影を反映したものであり、歴史研究において重要な位置を占めています。

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