金葉和歌集

金葉和歌集：複雑な成立過程と意外な評価の変遷

『金葉和歌集』は、平安時代後期に編纂された勅撰和歌集です。全10巻から成り、既存の勅撰和歌集『後拾遺和歌集』に続く、第五番目の勅撰集として位置付けられています。略称は『金葉集』。編纂者は、歌人として名高い源俊頼です。

白河院の意向と三度におよぶ改編

『金葉和歌集』の成立には、複雑な経緯が潜んでいます。白河院は、前作である『後拾遺和歌集』の編纂後、新たな勅撰和歌集の編纂を計画。その重責を源俊頼一人に託しました。俊頼は編纂に取り組み、天治元年（1124年）頃には完成させます。しかし、白河院への最初の献上は、却下されてしまいます。

その後、俊頼は天治2年4月頃までに内容を改訂して再献上しますが、これも白河院の承認を得られず、返却されます。そして、大治元年（1126年）頃、三度目の改編を行い、ようやく白河院に納められました。しかし、この三度目の献上品は、清書前の俊頼自筆の稿本であり、内々に白河院が閲覧し、受け入れたという、異例な経緯を辿っています。

これらの経緯から、『金葉和歌集』には、初度本、二度本、三奏本の三系統の伝本が存在します。三奏本こそが正式な最終稿とみなされますが、宮中に秘蔵されたまま、広く世に出回ることはありませんでした。一方、二度本は広く流布し、現代に伝わる主な本文となっています。

巻頭歌をめぐる白河院の意向と批判

なぜ、俊頼は何度も改編を強いられたのでしょうか？『今鏡』や『増鏡』などの文献によると、初度本の巻頭歌が白河院の不興を買ったことが原因の一つとされています。『今鏡』は紀貫之の歌、『増鏡』は白河院の異母弟である輔仁親王の歌を巻頭に置いたと伝えています。白河院が輔仁親王を忌避していた可能性があり、これが初度本却下の理由だと推測されます。二度本では、藤原顕季の歌を巻頭に置き、当代歌人の歌を多く取り上げましたが、これも白河院の評価を得られませんでした。最終的に納められた三奏本でも、既に『拾遺和歌集』に収録済みの歌を巻頭に用いるなど、問題点が指摘されています。

構成と内容：10巻構成と斬新な歌風

『金葉和歌集』は、序文のない全10巻から構成されています。短歌が中心ですが、巻第十には連歌も収められています。10巻構成の勅撰和歌集は、この『金葉和歌集』と続く『詞花和歌集』のみで、それまでの20巻構成とは異なります。これは、藤原公任撰の『拾遺抄』にならったものとされています。二度本では、六条源家、六条藤家の歌人が主要歌人として名を連ねています。

同時代からの酷評と後世からの再評価

『金葉和歌集』は、同時代からは厳しい評価を受けていました。歌論書『袋草紙』では「ひじつきあるじ」（まがい物の歌集）と揶揄され、撰者についても藤原基俊の方が適任だったという批判もありました。『古来風体抄』でも、同時代の歌ばかりを多く取り上げている点が問題視されています。

しかし、後世の評価は異なります。『金葉和歌集』は、それまでの伝統にとらわれず、斬新な歌風を取り入れ、当時の歌壇に新風を吹き込んだと見直されています。源俊頼自身も、『千載和歌集』や『百人一首』に多数の作品が採録されています。

伝本の多様性：三系統の伝本

『金葉和歌集』の伝本は、その複雑な成立過程を反映し、初度本、二度本、三奏本の三系統に分類されます。初度本は断片的な零本、二度本は最も多く伝わり、現代の本文の基になっています。三奏本は、近世になって発見されたものが複数存在します。それぞれの系統に差異があり、研究対象としても重要な資料となっています。

まとめ

『金葉和歌集』は、編纂過程の困難さ、同時代からの厳しい評価、そして後世からの再評価という、興味深い歴史を持つ和歌集です。その複雑な経緯、多様な伝本、そして革新的な歌風は、現代においても多くの研究者や歌人の関心を集め続けています。

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