藤原師経 (末茂流)

平安時代後期の悲劇：藤原師経の生涯

藤原師経は、平安時代後期に生きた人物です。父は後白河院の近臣として知られた藤原師光（西光）です。師経の誕生年は不明ですが、安元3年（1177年）6月9日に生涯を閉じました。

師経の経歴は、数少ない記録から断片的にしか分かりません。安元3年（1177年）、師経は加賀国目代を務めていました。しかし、この年に起こった白山事件が、彼の人生を暗転させることになります。

白山事件と延暦寺との対立

事件の発端は、師経が白山の末寺を焼き払ったことに端を発します。激怒した白山の僧侶たちは、延暦寺に訴え出ました。延暦寺は強大な勢力を持っていたため、この訴えは無視できませんでした。

事件は、後白河院と延暦寺との全面対決へと発展します。延暦寺の大衆・僧徒たちは神輿を担いで内裏へと進み、平重盛の兵と衝突する事態に発展しました。兵士の放った矢が神輿に当たり、死者まで出る大惨事となりました。

この事件により、後白河院側近であった師経の兄・師高は尾張国へ配流されました。平重盛は家臣を拘禁し、大衆の要求を呑むことで事件の収拾を図ろうとしました。しかし、事態はこれで終息したわけではありませんでした。

平清盛による粛清

同年、後白河院側近で平家打倒を密かに企てたとされる者たちが、平清盛によって粛清されました。その中には、師経の父である師光も含まれていました。師光は、かねてより天台座主・明雲の伊豆への配流を進言するなど、清盛との間に確執があったと伝えられています。

師光は、その罪状により斬首されました。師経もまた、弟の師平らとともに捕らえられ、六条河原で斬首されたのです。白山事件は、単なる宗教的な争いではなく、当時の政治情勢や権力闘争が複雑に絡み合った出来事であったことを示しています。

久々田村菊田神社棟札の裏書

興味深いことに、久々田村菊田神社の1597年（慶長二年）五月銘棟札の裏書には、「1181年（治承五年）四月左遷された藤原師経が久々田浦に着いた」という記述が残されています。これは、師経が安元3年（1177年）に既に処刑されているという記録と矛盾する記述です。この記述の信憑性や解釈については、更なる研究が必要です。

後世への影響

藤原師経の生涯は、平安時代後期の政治と宗教、そして権力闘争の複雑さを物語る一つの事例です。彼の悲劇的な最期は、後世の人々に様々な解釈を与え続け、歴史の闇の部分を照らす一筋の光となっています。江戸時代初期の絵師、岩佐又兵衛は「和漢故事説話図」の中で「近藤師経と寺僧の乱闘」を描いています。これは、師経の関与した事件が、後世においても記憶され、語り継がれてきたことを示しています。

しかしながら、史料の不足から、師経の生涯については依然として不明な点が多く残されています。今後の研究により、より詳細な事実解明が期待されます。

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