明雲

平安時代後期の天台座主、明雲：栄光と悲劇の生涯

明雲は、平安時代末期に活躍した天台宗の僧侶です。高貴な出自を持ち、優れた仏教的教養を身につけ、天台座主という最高位に上り詰めました。しかし、その生涯は栄光と悲劇が入り混じる波乱に満ちたものでした。

明雲は久我顕通を父に持ち、比叡山で修行を重ねました。弁覚法印という高僧から顕教と密教を学び、天台座主であった最雲法親王の後を継ぎました。仁安元年（1166年）には僧正に任じられ、翌年には天台座主の座に就きます。さらに、高倉天皇の護持僧、後白河法皇の授戒師を務めるなど、朝廷との関係も深めていました。

特筆すべきは、平清盛との強い結びつきです。清盛の出家時には戒師を務めるなど、深い信頼関係を築いていました。しかし、明雲の運命は、治承元年（1177年）の白山事件によって大きく変わります。延暦寺の末寺である白山と加賀国の国司との争いに責任を問われ、天台座主の職を解かれ、伊豆国への配流を命じられました。しかし、民衆の支持を得て、配流先から脱出し、比叡山に舞い戻ります。

治承三年の政変後、明雲は天台座主の地位に復帰し、寿永元年（1182年）には大僧正に昇進します。平氏政権と延暦寺との間の調整役として重要な役割を担いました。しかし、平家の都落ちには同行せず、延暦寺にとどまりました。

明雲の生涯に終止符を打ったのは、寿永二年（1183年）の法住寺合戦でした。この戦いで、源義仲軍の武将、楯親忠が放った矢に当たり落馬し、殺害されてしまいます。義仲は明雲の首を西洞院川に投げ捨てたと言われています。天台座主が殺害されたのは明雲が初めてでした。明雲の遺体は、同じ合戦で命を落とした円恵法親王と共に高野山に運ばれました。

明雲という人物像は、様々な史料から多角的に見ていく必要があります。慈円は『愚管抄』の中で、最高位の僧侶でありながら戦場で殺生を行い、戦死した明雲を厳しく批判しています。一方、『今鏡』では、「世の末におはしがたい」座主として高い評価を与えています。卜部兼好の『徒然草』には、明雲が人相見に自身の将来を占わせた逸話が記されています。この逸話からも、明雲が自身の運命を案じていたことが伺えます。

明雲の生涯は、平安時代末期の激動する世相を反映した、ドラマチックなものでした。高貴な身分と高い宗教的地位を持ちながらも、権力闘争に巻き込まれ、悲劇的な最期を迎えた明雲の姿は、現代においても人々の心を捉え続けています。様々な史料からの考察を通して、明雲という人物像をより深く理解することができるでしょう。

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