藤原秀子 (歌手)

藤原秀子（ふじわら ひでこ）は、1946年8月21日に大阪府泉大津市で生を受けた日本の女性フォークシンガーである。2013年11月29日にその生涯を終えた。特に、1960年代後半から70年代初頭にかけて、日本のフォークソングムーブメントの中心的な役割を担ったグループ「五つの赤い風船」の看板ボーカリストとして広く知られている。

学生時代を羽衣学園の中学校、高等学校を経て、同短期大学を卒業した彼女は、既に学内で音楽活動を開始していた。短期大学在学時には、中川砂人らと共に「ザ・ウィンストンズ」という名のフォークバンドを結成。このグループは、アメリカの有名なフォークトリオであるピーター・ポール＆マリー（PPM）のスタイルに影響を受けたものであり、彼女の音楽キャリアの礎となった。

1967年、「五つの赤い風船」が結成されるにあたり、彼女は最初期からのメンバーとして参加する。リーダーである西岡たかしと共に、グループのサウンドにおいて極めて重要な役割を担うこととなる。愛称「フーコさん」としてファンに親しまれた彼女は、その華奢で可憐な容姿からは想像もつかないほど、力強く独特なハスキーボイスを持っていた。この個性的な歌声と、西岡たかしの繊細なボーカルが織りなすハーモニーは、多くのフォークミュージック愛好者を魅了し、「五つの赤い風船」の音楽性を決定づける大きな要素となった。彼らの楽曲は、叙情的で社会的なメッセージを含むものが多く、当時の若者たちの共感を呼び、一時代を築いた。

グループでの精力的な活動の一方で、藤原秀子はソロアーティストとしてもその才能を示している。1970年に発表されたアルバム『私のブルース』は、彼女にとって唯一の単独名義での作品となった。このアルバムには、彼女自身が作詞・作曲を手がけた楽曲が半数以上を収録しており、シンガーとしてだけでなく、ソングライターとしての非凡な才能をも証明している。このアルバムは長らく廃盤となり、一部の熱心なファン垂涎のアイテムとなっていたが、没後である2015年7月にグリーンウッドレコーズから復刻され、改めて多くのリスナーにその存在が再認識されることとなった。1971年には、岐阜県椛の湖畔で開催された第3回全日本フォークジャンボリーに出演。この時はリーダーの西岡たかしがアメリカへ渡航中だったため、メンバーの東祥高と二人で「トン・フー子」という名義でステージに立っている。

「五つの赤い風船」は、日本の音楽シーンに大きな足跡を残した後、1971年に活動を終了する。グループの解散と同時に、藤原秀子もまたプロの音楽活動から身を引くことを決意した。そして、共に「五つの赤い風船」のメンバーであった東祥高と結ばれ、家庭に入った。その後は、二人の子供を持つ母親として、新たな人生を歩んだ。公の場での音楽活動はほぼ皆無となったが、彼女の歌声やグループでの活躍は、当時のフォークファンの中で色褪せることなく語り継がれた。

しかしながら、晩年には厳しい試練が訪れる。60代になった頃、彼女は難病である大脳皮質基底核変性症（CBD）を発症したのである。この病気は進行性の神経変性疾患であり、運動機能や認知機能に深刻な影響を及ぼす。病状と闘いながらの日々を送った末、2013年11月29日、享年67歳でその生涯を閉じた。

藤原秀子の歌声は、短期間ではあったが日本のフォークシーンに鮮烈な印象を残した。特に「五つの赤い風船」の楽曲における彼女の存在感は絶大であり、その歌声なくしては語れない名曲の数々を生み出した。引退後も、彼女の残した音楽は多くの人々に愛され続け、2015年のソロアルバム復刻は、その再評価の動きを後押しするものとなった。日本のフォーク史において、藤原秀子は紛れもない重要人物の一人として、その名を刻んでいる。

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