藤本喜久雄

藤本 喜久雄（ふじもと きくお）

藤本喜久雄は、1888年（明治21年）1月12日に石川県に生まれ、1935年（昭和10年）1月9日に逝去した日本の海軍造船官です。彼は最終階級が海軍造船少将であり、その業績と革新的な考え方で知られています。従四位、勲三等を受けた彼の功績は、今でも日本の造船業界で語り継がれています。

来歴と人物像

藤本は、海軍造船の領域において斬新なアイデアを導入し、特に技術革新に情熱を持ち続けました。彼が手掛けた長門型戦艦では、艦橋に煙突の排煙が逆流するという問題を抱えていました。藤本は独自の解決策として第1煙突を大きく曲げた「屈曲煙突」を考案しました。この革新的なデザインは、当初は先輩の造船官である平賀譲から批判されましたが、長門型の艦容は「芋虫煙突」として日本国民に親しまれ、多くの国で同様のデザインが採用されることとなりました。

1927年には海軍艦政本部第四部の基本設計主任に任命され、最上型重巡洋艦や初春型駆逐艦などの設計に尽力しました。藤本が関与した艦艇は性能が高く評価されたものの、ロンドン海軍軍縮条約の影響で予定を大幅にオーバーする排水量になってしまいました。また、強度面に問題を抱えることもあり、藤本の積極的な技術導入は保守的な造船官である平賀から批判を受けることもありました。

彼は友鶴事件の際に謹慎処分を受け、海軍技術研究所に勤務していましたが、1935年には脳溢血で急逝しました。享年47でその訃報は新聞で「わが海軍造船の至宝」と称えられました。葬儀は青山斎場で海軍葬として執り行われました。

藤本の名声は友鶴事件によって一時損なわれましたが、彼の柔軟な設計思想と新技術の導入を惜しまない姿勢は、伝統を重んじる平賀と対照的であり、藤本の方が人望があったとされています。金剛級の設計においても、平賀が旧来のイギリス式集中防御に固執する中で、藤本はバイタルパートの延長に重きを置いた設計案を提案しました。これにより、藤本が艦艇の被弾によるダメージコントロールの研究に熱心であったことが示唆されています。

藤本の死後、平賀は彼の提案を撤廃しましたが、これが日本海軍艦船の攻撃重視・防御弱体の特性に繋がり、大きな損失を招く要因ともなったとする意見もあります。このように、藤本の設計思想とその影響は、彼が生きていた時代を超えて海軍の艦船設計において重要な要素として位置づけられています。

略歴

• - 1909年：海軍造船学生を開始
• - 1911年：東京帝国大学工科大学造船科を卒業し、海軍造船中技士（中尉相当官）に任官、横須賀鎮守府附
• - 1921年：東京帝国大学工学部の講師嘱託を務める
• - 1927年：ジュネーブ海軍軍縮会議全権随員、海軍艦政本部第四部基本設計主任、海軍造船大佐に昇進
• - 1933年：海軍艦政本部第四部出仕、海軍造船少将に進級
• - 1934年：友鶴事件に関与
• - 1935年1月9日：死去、従四位に叙される

藤本喜久雄の業績は、海軍の艦艇設計における革新や技術の発展に大きく寄与し、彼の思想や技術は現在も影響を及ぼしています。

もう一度検索