初春型駆逐艦

初春型駆逐艦は、大日本帝国海軍の一等駆逐艦として計画されました。吹雪型駆逐艦（特型）に続く艦隊型駆逐艦として期待されましたが、その設計は多くの問題を抱えていました。

概要

1930年のロンドン海軍軍縮会議の結果、補助艦艇の保有量も制限されることになり、特に駆逐艦においては、日本は英米に対して7割の保有量しか認められませんでした。さらに、「1,500トンを超える艦は、合計排水量の16パーセント以内」という制約が設けられたため、当時主力として建造していた特型駆逐艦のさらなる建造が困難になりました。

そこで、海軍は特型よりも小型の1,400トンの船体に、特型に匹敵する性能を持たせるという、一見無理とも思える計画を立てました。この難題に対し、藤本喜久雄造船大佐は、特型と同様の手法を用いることで要求を満たそうとしました。基本計画番号はF45。排水量が条約制限の1,500トンよりもさらに100トン少ないのは、保有隻数の増加と建造費の削減を意図したためと考えられます。

昭和6年度（1931年）からの第一次海軍軍備補充計画（通称「①計画」）で、駆逐艦は1,400トン型（本型）を計画。当初は18隻の建造が要望されましたが、予算の関係で12隻が承認されました。しかし、1番艦「初春」と2番艦「子日」の竣工後、後述する問題が発覚したため、建造は6隻で打ち切られ、残りの6隻は設計を改めて白露型として建造されることになりました。

艦型

船体

排水量を抑えるため、船体には徹底的な軽量化が施され、その分兵装に重量が割かれました。また、電気溶接を多用したのも同様の理由からです。速力の要求を満たすため、船型は長くなり、重心（GM）を考慮して幅が広くなったため、必然的に吃水が浅くなりました。当時の復元性に関する評価はGMのみを重視しており、重心が高く、風圧側面積比が大きい、いわゆる「トップヘビー」な艦となってしまいました。凌波性向上のため、艦首から船体中央にかけてフレアが設けられているのは特型と同様です。

主砲

主砲は、特型と同じ50口径三年式12.7センチ砲を採用。前部に連装1基、その上に単装1基を背負式に装備し、後部には連装1基を装備、計5門を搭載しました。このような主砲配置は、日本海軍では本型のみです。

連装砲の砲架はB型改2で、特型のII型以降に搭載されたB型が旋回・俯仰用の電動機を1台で兼用したのに対し、それぞれ独立した電動機を搭載し、旋回と俯仰速度を向上させた型です。単装砲はA型1基を搭載しました。

当初の計画では、主砲を連装3基搭載し、魚雷発射管は4連装2基を搭載する予定でしたが、魚雷発射管の開発が間に合わず、3連装3基に変更されたため、連装砲3基のうち1基を単装砲に改めたと考えられます。

魚雷

特型と同じく61cm3連装発射管3基を搭載し、竣工時から防盾を装備しました。3番発射管は、2番発射管の後部上構上に装備するという特異な配置でした。

後の海軍標準装備となる「次発装填装置」を、本型が駆逐艦として初めて装備しました。予備魚雷の装填は機力によって行われ、1本あたり20秒から25秒という短時間で再装填が可能となりました。これにより、魚雷発射後すぐに再度の魚雷攻撃が可能となりました。ただし、予備魚雷を発射管と同じ高さに搭載する必要があり、これも本型での重心上昇の原因となりました。

魚雷発射管は九〇式三連装水上発射管二型を搭載しました。特型と睦月型が搭載した一二年式三連装発射管は中管が若干高くなっていましたが、本型では次発装填装置のために3管とも高さが同じになりました。

機関

缶（ボイラー）は特型III型（暁型）と同じロ号艦本式缶（空気余熱器付）3基を搭載し、蒸気圧力は20kg/平方cm（後に22kg）、蒸気温度300度で、特型よりも圧力・温度共に上昇しました。第1煙突にボイラー2基、第2煙突に1基の排煙が導かれ、第1煙突が太くバランスのとれた艦型となりました。

主機は艦本式ギアード・タービンで、1基につき高圧低圧タービン各1基で、高圧タービンにギアを介して巡航タービンを接続しました。

特型では主機を1台ずつ左右の機械室に収めましたが、本型では縦隔壁を廃止して主機は前部機械室1室に収めました。

その他の艤装

艦橋は特型III型（暁型）に準じ、羅針艦橋上に発射指揮所、射撃指揮所、方位盤照準装置、3m測距儀をひな壇式に搭載した大型の艦橋を装備しました。羅針艦橋、発射指揮所、射撃指揮所には防弾鋼板が装着されました。

煙突は艦橋への排煙の逆流を防ぐため、特型よりも高くされました。1番発射管の予備魚雷を2番煙突の右側に装備したため、2番煙突は中央から左に寄っており、2番煙突形状も前方が狭い特異な形状をしています。

後部マストは日本駆逐艦として初めて三脚式としました。

性能改善工事

復原性能改善

公試運転の際、一番艦「初春」は、舵角10度に対し38度もの傾斜を示し、乗員を驚かせました。60度の傾斜で転覆するほど復原性能は悪かったため、急遽舷側にバルジ（片舷幅300mm）を付けてGMを大きくし、レンジは約70度に改善されました。建造中の「若葉」「初霜」も同様の工事を行いました。

しかし、「初春」と二番艦「子日」の竣工から約半年後の1934年3月に友鶴事件が発生しました。この時期の日本海軍艦艇は、重心が高くてもGMを大きくすれば復原性能に問題無いと考えて設計されており、「友鶴」も本型も竣工時にバルジを装着していました。この事件により、重心を下げる必要があると結論付けられ、本型も徹底的な重心降下のための工事が行われました。

船体補強

1935年9月に第四艦隊事件が発生し、特型で採用された船体軽量化をさらに推し進めていた本型も船体強度が見直されました。溶接による残存内力の除去や甲板や外板の張り替え、溶接部分の一部を鋲接に改めるなどの工事が行われました。外観上は船首楼舷縁部に丸みが着けられています。

これらの改善工事の結果、復元性・船体強度共に問題は無くなりましたが、排水量が大きく増加し、速力が3ノット程度減少、兵装は特に魚雷兵装が3連装発射管1基、魚雷6本（予備魚雷を含む）減少するなど大きく影響し、重兵装を狙った計画だったものの、平凡な性能の駆逐艦となりました。

もう一度検索