藤枝晃雄

藤枝晃雄（ふじえだ てるお、1936年9月20日 - 2018年4月26日）は、日本の美術評論家であり、武蔵野美術大学の名誉教授を務めました。福井県出身で、東京芸術大学美術学部を卒業後、京都大学大学院を中退。その後、ペンシルベニア大学大学院に留学し、2002年には「ジャクソン・ポロック」に関する研究で大阪大学から文学博士号を授与されました。

藤枝の専門分野は、ジャクソン・ポロック、アドルフ・ゴットリーブ、草間彌生といった、20世紀美術を代表するアーティストたちです。1960年代後半から美術雑誌『美術手帖』などに評論を寄稿し、その鋭い批評眼と、独自の視点によって、日本の美術界に大きな影響を与えました。

特に、アメリカの美術評論家クレメント・グリーンバーグが提唱したフォーマリズム批評を日本に紹介したことで知られています。フォーマリズム批評とは、美術作品をその形式的な要素、つまり線、色、形、構成などに基づいて分析・評価する批評方法です。藤枝は、この批評理論を日本に導入し、日本の美術ジャーナリズムに新たな視点をもたらしました。

藤枝はまた、数多くの著書を執筆し、現代美術の理解を深めるための重要な貢献をしました。主な著書には、『現代美術の展開』（1977年）、『ジャクソン・ポロック』（1979年、1994年、2007年）、『現代美術の展開 美術の奔流この50年』（1986年）、『絵画論の現在　マネからモンドリアンまで』（1993年）、『現代芸術の不満』（1996年）、『現代芸術の彼岸』（2005年）、『モダニズム以後の芸術 藤枝晃雄批評選集』（2017年）などがあります。これらの著作は、単に美術作品の解説にとどまらず、美術史、社会、文化などの幅広い視点から考察を加えたもので、美術史研究者や美術ファンにとって貴重な資料となっています。

さらに、藤枝は多くの共編著も手がけています。『空間の論理 日本の現代美術』（1969年）、『現代の美術 9 構成する抽象』（1971年）、『巨匠の名画 8 モディリアーニ』（1977年）、『世界の素描 33 マティス』（1978年）、『アメリカの芸術 現代性を表現する』（1992年）、『芸術理論の現在 モダニズムから』（1999年）、『現代芸術論』（2002年）、『絵画の制作学』（2007年）、『日本近現代美術史事典』（2007年）など、多岐にわたるテーマを扱い、共同研究者とともに美術の多様な側面を探求しました。

また、翻訳にも携わり、クレメント・グリーンバーグの評論集である『グリーンバーグ批評選集』（2005年）では訳者代表を務めました。

藤枝晃雄の功績は、その深い専門知識と幅広い視野に基づいた批評活動によって、日本の現代美術の発展に大きな貢献をしたことにあります。彼の残した著作や評論は、今日においてもなお、美術を研究する上で重要な文献として読み継がれています。東京芸術大学卒業論文の装丁を石岡瑛子が担当したことも、特筆すべきエピソードでしょう。

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