クレメント・グリーンバーグ

クレメント・グリーンバーグ（Clement Greenberg, 1909年1月16日 - 1994年5月7日）は、リトアニア系ユダヤ人の子としてニューヨークに生まれたアメリカの美術評論家です。アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・[[ニューヨーク]]とシラキューズ大学を卒業後、美術評論家としてのキャリアをスタートさせました。

グリーンバーグは、抽象表現主義とその代表的な画家であるジャクソン・ポロックを擁護したことで知られています。彼は、モダニズムが、大量消費社会によって引き起こされる文化の低下に抵抗する手段であると主張しました。1939年の論文「アヴァンギャルドとキッチュ」では、芸術を前衛（アヴァンギャルド）と俗悪なもの（キッチュ）に分類し、モダニズムが世界を経験し理解する枠組みを探求するものであると論じました。この論文は、政治的な動機も持ち合わせており、ナチス・ドイツやソヴィエト連邦がモダニズムを弾圧し、国策的な芸術を推進したことに対する批判を含んでいます。

第二次世界大戦後、グリーンバーグは、前衛芸術の中心がヨーロッパからアメリカに移ったと考え、特にジャクソン・ポロックの画法を絶賛しました。1955年の論文「アメリカ型絵画」では、ジャクソン・ポロック、ウィレム・デ・クーニング、ハンス・ホフマン、バーネット・ニューマンら抽象表現主義の画家たちを、モダニズムの次世代を担う存在として紹介し、モダニズムが絵画の「平面性」を強調する方向に進むと主張しました。彼は、平面性こそがモダニズムを過去の絵画と区別する要素であると強調し、抽象表現主義を純粋芸術の領域へと引き上げました。

しかし、グリーンバーグの主張は、戦後のアメリカがプログレッシブな芸術の守護者になったという解釈を生み、抽象表現主義が文化的なプロパガンダとして利用されることもありました。1960年代に台頭したポップアートに対しては、大衆文化の影響を受けた低俗なものとして厳しく批判しました。彼は、マイケル・フリードやロザリンド・クラウスといった後進の美術批評家にも影響を与えましたが、ポストモダニズムや美術の社会運動化に対しては批判的な立場を取りました。このため、「クレンバッシング」と呼ばれる批判を受けることもありました。

その後、グリーンバーグは、抽象表現主義がマンネリズムに陥ったと考え、主題や作家性、筆致などを排除した新しい世代の美術家たちに注目しました。彼は、カンヴァスの純粋性を追求し、絵画空間の平面性を讃える「ポスト・ペインタリー・アブストラクション（絵画的抽象以降の抽象）」という概念を提唱しました。ポスト・ペインタリー・アブストラクションは、「ハードエッジ」と「カラーフィールド・ペインティング」という2つの流れに分かれ、それぞれ輪郭と形象の関係、純粋な色彩の追求を特徴としています。

グリーンバーグは、その理論と批評を通じて、20世紀の美術界に多大な影響を与え、モダニズムの展開を深く理解するための重要な視点を提供しました。

主な著作

『グリーンバーグ批評選集』藤枝晃雄編「訳」 勁草書房、2005年
『近代芸術と文化』瀬木慎一「訳 」芸術論叢書・紀伊国屋書店、1965年

関連項目

* 抽象表現主義

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