蘆原英了

芦原英了：バレエとシャンソンの世界を繋いだ評論家

芦原英了（あしはら えいりょう、1907年1月9日 - 1981年3月2日）は、20世紀日本の文化シーンにおいて、バレエとシャンソンという異なった世界を繋ぐ重要な役割を果たした評論家です。本名は敏信。滋賀県大津市で軍医の四男として生まれ、慶應義塾大学文学部フランス文学科を卒業後、1932年にはフランスへ留学。バレエ、シャンソン、演劇を深く学びました。

帰国後は中央公論社に入社し、戦後は「婦人公論」の編集長を務めるなど、ジャーナリストとしてのキャリアを積みます。同時に、バレエ、シャンソン、演劇評論家としても活躍し、その鋭い視点と深い知識で高く評価されました。1957年には大宅壮一が設立した「ノンフィクションクラブ」に参加。洗練された批評は、多くの読者や聴衆を魅了しました。

彼の功績は評論活動だけにとどまりません。1946年には、東京バレエ団（現在の東京バレエ団とは関係ありません）の支援者として重要な役割を果たし、「白鳥の湖」の舞台装置を、親戚である画家・藤田嗣治に依頼するなど、日本のバレエ界の発展に貢献しました。

また、昭和40年代にはNHKラジオ第一で放送された「午後のシャンソン」のMCと解説を担当。渋みのある語り口は、隠れた人気番組として長く愛され、現在でもその魅力を語るファンは少なくありません。

彼の多岐にわたる活動は、数々の受賞に繋がりました。1957年には『巴里のシャンソン』で毎日出版文化賞を受賞。1962年にはフランス政府から芸術文化勲章を、1974年には紫綬褒章を受章しました。

芦原英了の幅広い知識と深い造詣は、膨大なコレクションに表れています。没後、彼の蔵書である洋書約5400冊、楽譜約5200点、レコード約9300枚は「芦原英了コレクション」として国会図書館に収められ、現在も貴重な資料として活用されています。

主な著書には、『現代舞踊評話』（1935年）、『舞踊美論』（1942年）、『バレエの基礎知識』（1950年）、『バレエの歴史と技法』（1981年）など、バレエに関する専門書が多く含まれています。一方、『巴里のシャンソン』（1956年）、『シャンソンの手帖』（1985年）など、シャンソンに関する著作も多数出版。さらに、自伝やサーカス研究など、その活動範囲の広さがうかがえます。

彼の血縁関係もまた興味深いものです。父は陸軍一等軍医の蘆原信之、弟は建築家の蘆原義信、甥は建築家の蘆原太郎。母方の叔父は画家藤田嗣治であり、この華麗なる家系図は、彼の文化への造詣を育んだ背景の一つと言えるでしょう。さらに、小山内薫、岡田八千代といった文化人とも親戚関係にあり、日本の文化史において重要な役割を果たした数々の家系と繋がりを持つ複雑なネットワークを築いていたことが分かります。

芦原英了は、評論家、ジャーナリスト、そしてコレクターとして、多方面で活躍した稀有な人物でした。彼の残した著作とコレクションは、これからも日本の文化研究において重要な役割を果たし続けるでしょう。

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