虚栄の市 (1935年の映画)

1935年、アメリカ合衆国で誕生した映画『虚栄の市（原題：Becky Sharp）』は、映画史にその名を刻む傑作です。本作は、ウィリアム・メイクピース・サッカレーによる19世紀を代表する小説『虚栄の市』を原作としています。小説が発表されたのは1847年から1848年にかけて。それから約半世紀後、1899年には舞台作品として脚色され、人気を博しました。そして、この舞台劇を基に映画化されたのが、この『虚栄の市』なのです。

この映画の最大の特徴は、何と言ってもその色彩表現にあります。当時としては画期的な3色法テクニカラーを用いて制作された、初の総天然色長編映画だったのです。それまでのカラー映画は、短編作品か、白黒映画の一部にカラーシーンを挿入したものに限られていました。そのため、この映画は、カラー映画の歴史において重要な転換点となった作品と言えるでしょう。鮮やかな色彩が、19世紀イギリスの社会を描写する上で大きな役割を果たし、観客を当時の世界へと誘います。

監督を務めたのはルーベン・マムーリアンですが、映画製作は決して順風満帆ではありませんでした。当初、ローウェル・シャーマンが監督に就任していましたが、撮影開始直後に肺炎で急逝するという悲劇に見舞われます。その後、マムーリアンが監督を引き継ぎ、困難を乗り越えて映画を完成に導きました。こうした製作過程も、この映画を語る上で重要な要素と言えるでしょう。困難を乗り越えて完成した作品には、並々ならぬ情熱が込められています。

キャストも豪華です。主人公ベッキー・シャープ役にはミリアム・ホプキンスが抜擢されました。彼女の演技は高く評価され、第8回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされるという快挙を達成しています。さらに、フランシス・ディー、セドリック・ハードウィックなど、当時を代表する名優たちが脇を固め、物語に深みを与えています。それぞれの俳優陣の個性が際立ち、キャラクターの複雑な感情を見事に表現しています。

ストーリーは、野心的な女性ベッキー・シャープの波乱万丈の人生を描いています。彼女は、上流階級へのし上がりを夢見て、周囲の人々を巧みに利用しながら、社会を駆け上がろうとします。しかし、その過程で様々な苦難や葛藤に直面し、虚栄の社会の残酷さと人間の弱さを浮き彫りにします。ベッキーの選択、そしてその結果が、現代の私たちにも多くの示唆を与えてくれるでしょう。

『虚栄の市』は、単なる娯楽映画ではありません。鮮やかな映像美、豪華なキャスト、そして原作小説の持つ深遠なテーマが三位一体となり、観る者を魅了する作品です。製作過程における困難や、アカデミー賞ノミネートという栄誉も、この映画の価値を高める要素となっています。1935年という時代背景、そして映画技術の進化を物語る歴史的な作品としても、高く評価されるべきでしょう。この映画が伝えるメッセージは、現代社会においても色褪せることなく、私たちに問いかけ続けています。技術的にも、文化的にも、歴史的にも重要な意味を持つ『虚栄の市』は、何度でも鑑賞に値する名作と言えるでしょう。

もう一度検索