蜂須賀斉裕

蜂須賀斉裕：将軍の血を引く苦悩の藩主

蜂須賀斉裕（はちすか なりひろ）は、江戸時代末期、阿波国徳島藩の第13代藩主を務めた人物です。彼は、第11代将軍・徳川家斉の二十二男として生まれ、第12代将軍・徳川家慶の異母弟にあたります。また、第13代将軍・徳川家定（家慶の子）は甥にあたりますが、斉裕の方がわずか3歳年下でした。

将軍の子から外様大名へ

文政4年（1821年）に生まれた斉裕は、文政10年（1827年）に徳島藩12代藩主・蜂須賀斉昌の養子となります。父・家斉は多数の子をもうけ、その多くを他藩へ養子に出しました。斉裕もその一人として、外様大名の徳島藩へ入ることになったのです。徳島藩は阿波・淡路を領する大藩でしたが、斉裕にとっては複雑な心境だったかもしれません。

藩政改革への挑戦

天保14年（1843年）に藩主となった斉裕は、悪化していた藩の財政を立て直すため、藩政改革に取り組みます。まず、藩士の知行を削減し、特産品である藍を扱う商人からの献金を求めました。また、軍制をイギリス式に改め、淡路島に砲台を築くなど海防を強化しました。これらの政策により、斉裕は幕府から海軍総裁・陸軍総裁に任命されます。しかし、莫大な出費がかさみ、短期間で総裁職は廃止、徳島藩の財政はさらに悪化します。

幕末の動乱と斉裕

斉裕は徳川将軍家の一族でありながら、幕末の政局とは一定の距離を保とうとしました。しかし、公武合体を目指して家臣を京都へ送り込むなど、動乱の時代に翻弄されます。洲本城代の稲田氏をはじめとする家臣団からは、公武合体に批判的な意見が多く、藩論を統一できませんでした。この藩論の分裂が、幕末における徳島藩の存在感を薄める一因になったと言われています。

重要文化財である「紙本墨書阿波国板野郡田上郷延喜二年戸籍残巻」は、斉裕の時代に蜂須賀家が京都で入手したと伝えられています。

慶応3年（1867年）には、大相撲の勝負を巡って自身のお抱え力士をボイコットさせるという騒動を起こしました。

慶応4年（1868年）、鳥羽・伏見の戦いの最中に48歳で急死し、跡を次男の茂韶が継ぎました。

斉裕は「勤王にして佐幕」「開国派にして攘夷論者」という矛盾した立場に苦しみ、「御内鬱」と記されるほどの精神状態に陥っていたと言われています。その苦悩を酒で紛らわせた結果、アルコール中毒症を患ったとも伝えられています。

軍事面での功績と死を惜しまれた藩主

徳川将軍家出身でありながら、海防や軍制改革など、軍事面においては目覚ましい功績を残しました。それなりの実行力を持った藩主であったため、その死は幕府側の多くの人物から惜しまれたと言われています。

現在に残る斉裕の肖像画としては、守住貫魚が描いた「蜂須賀斉昌・斉裕画像」（井伊美術館蔵）や、関寛斎が描かせた肖像（徳島城博物館蔵）などが存在します。

蜂須賀斉裕は、将軍の血を引くという宿命を背負い、幕末の激動期に藩主として生きた人物でした。その生涯は、藩政改革への挑戦、幕府との関係、藩論の分裂など、多くの苦悩に満ちたものでしたが、軍事面における功績は特筆に値します。彼の死は、徳川幕府の終焉を象徴する出来事の一つとして、歴史に刻まれています。

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