蝉丸

平安時代前期の歌人、蝉丸：謎に包まれた生涯と数々の伝承

蝉丸は、平安時代前期に活躍した歌人です。古くは「せみまろ」とも呼ばれていました。その生涯は謎に満ちており、確かな史実は少ないものの、多くの伝承や逸話、そして和歌作品を通じて、人々の想像力を掻き立て、現在まで語り継がれています。

出自と生涯：皇族説から物乞い説まで

蝉丸の出自については、複数の説が存在します。皇族の子孫とする説では、醍醐天皇の第四皇子、宇多天皇の皇子敦実親王の雑色、光孝天皇の皇子など、様々な説が唱えられています。一方、物乞いとして生活していたとする説もあり、その出自は未だに確定していません。

史料上、初めて蝉丸の名が登場するのは天暦5年（951年）の『後撰和歌集』です。同歌集に収められた「これやこの 行くも帰るもわかれつつ 知るも知らぬも あふさかの関」という歌は、彼の代表作として広く知られ、『小倉百人一首』にも収録されています。ただし、『小倉百人一首』や他の文献では、歌の三句目が異なるバージョンも存在します。

蝉丸は盲目であり、琵琶の名手であったという伝承もあります。この伝承から、仁明天皇の第四宮人康親王と同一人物とする説も存在します。『平家物語』では、醍醐天皇の第四宮として山科の四宮河原に住み、平家を語る琵琶法師、盲僧琵琶の職祖とされています。一方で、『古本説話集』や『俊頼髄脳』では、逢坂の関で往来の人に物乞いをして生活し、琵琶を弾いていたと記されています。

『兼載雑談』などの歌論書では、蝉丸の和歌に人々を観察する様子が見られることから、盲目説を否定し、世のしがらみを捨てたという意味での「盲目」とする解釈もあります。また、関清水蝉丸宮の縁起類には、開眼譚を含むものが多く見られます。

蝉丸の生没年は不明ですが、『寺門伝記補録』や『関清水神社由緒書』によると、天慶9年（946年）9月24日に逢坂山の麓で亡くなり、関明神に合祀されたとされています。現在では旧暦5月24日またはグレゴリオ暦6月24日が「蝉丸忌」として扱われています。

歌と作品：勅撰[[和歌集]]への採録

蝉丸の作品は、勅撰[[和歌集]]に計4首が採録されています。しかし、確実に蝉丸が詠んだ歌は、『後撰和歌集』に収められた「逢坂の関」の歌のみと考えられています。他の歌は、作者不詳の伝承歌の可能性が高いです。これらの歌には、様々な異本が存在し、テキストの変異も研究課題となっています。

伝承と逸話：逢坂の関と琵琶法師

蝉丸に関する伝承は数多く存在します。『今昔物語集』では、逢坂の関に庵を結び、琵琶の名手として知られていたと記されています。同物語集の影響を受けた『江談抄』にも、逢坂山に住む琵琶の名手が登場しますが、その名は明示されていません。これらの物語では、蝉丸（またはそれに相当する人物）の琵琶の技量の高さが強調されており、源博雅との交流も伝えられています。

芸能における蝉丸：能と人形浄瑠璃

蝉丸は、能や人形浄瑠璃の題材にもなっています。能の『蝉丸』は、逢坂の関を舞台に、障害を持つ姉弟の悲しい物語を描きます。一方、近松門左衛門作の人形浄瑠璃『蝉丸』では、蝉丸は女性の怨念で盲目となりますが、最後に開眼するという筋書きになっています。

蝉丸に関する史跡：神社と墓

現在も、蝉丸を祀る神社が各地に存在します。滋賀県大津市逢坂山にある関蝉丸神社、福井県越前町にあるとされる蝉丸の墓、鳥取県米子市や滋賀県大津市大谷町にある蝉丸神社など、彼の足跡を偲ばせる場所が各地に残っています。

百人一首とその他

『小倉百人一首』のカルタの絵札では、蝉丸は特徴的な姿で描かれることが多く、坊主めくりなどの遊びにおいてはジョーカーのような役割を果たすこともあります。「これやこの～」の歌は、百人一首の中で唯一、濁点・半濁点が全く使われていない歌としても知られています。また、名神高速道路には「蟬丸トンネル」があり、彼の名を冠した地名や施設が多く存在することからも、蝉丸が人々の記憶に深く刻まれていることがわかります。

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